Pipette Vol.10
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8度は、あの人が大統領でいいと思うな」と言ってもいいのです。それで、「模擬投票をみんなでやってみよう」って、わいわいやればいい。大事なのは一人ひとりの子どもが「ぼくはこう思います」「私はこう思います」と意見を表明する権利をきちんと保証するということ。これが本来の政治的中立なんです。―どういう教育をすればいいでしょうか。子どもを中心にすえることです。大人が引っ張ろうとするのではなく、子どもとのパートナーシップで学校・社会をつくっていく。先日、高校生のための労働組合を高校生自身が作ったというニュースがありました。ぼくの発想にない動きで、もう「負けた」って感じ。今、ブラックバイトが問題になっていますが、どこに相談したらいいかわからない高校生も多い。そこで高校生がバイトに関する労働組合を作って高校生からの相談にも自ら応じると。安保法制でもSEALDsという学生団体の動きがありました。学生の意識が完全に変わっていますよね。教員もボヤッとしていられないです。高校生もT─ns SOWLという団体が立ち上がり、東京で5000人集まったり。ぼくは70年安保世代ですが、当時の学生運動は何かの団体や組織に所属していないと、デモにも行けなかった。今の子たちはSNSでつながって、現地で、みんな初対面なんです。自己が確立した上でのつながり合いですよね。ぼくはあんパンが好きなんですが、たとえて言うならぼくらの時代はこしあんで生きてきた。けれども、今は粒あん状態なんです。一粒一粒の個が確立している。粒あんの魅力にはかなわないわ(笑)。これだけの若者がそれぞれの意志で集まったことに対して、テレビのコメンテーターなどはよく革新だと言いますが、彼らはあくまで保守なんです。「今まで、こんなに友だちとも仲良くして、平和に生きてきたのに、何かきな臭くなってきたぞ、戦争、嫌い、いやだ」っていうことです。何かを変えようというのではなく、今の平和な日本を壊したくないという思いです。それに対して利己的だと言った議員がいましたけれど、利己的でいいんです。死ぬなんてとんでもないことですから。人を殺すのもいやだし。そう思うのは当然ですよね。そうやって日本の変化を感じ取っていくうちに、彼らは、今まで自分たちがこんなに幸せに生きてこられたのは、憲法があったからだと、後づけで気がついたんです。「憲法を守れ」から入ったのではなく、自分が中心で、そういった意味では利己的なんです。自分の思いがまずあって、そこから憲法につながっていっているから、ぼくはすばらしい学びのプロセスだと思います。ですから、大人が上から目線で教育するのではなくて、国のことや地域のことを考えたり、就職のことも含めいろんなことを、パートナーシップという立場で共に考えていこうという姿勢が大事だと思います。インタビューを終えて ご著書を拝読していましたが、それ以上に熱く、教育現場を知る立場からの持説を、予定時間を超えて語られました。※平成27年8月28日収録 次回は、認知症予防に情熱を注ぐ日本認知症予防学会の浦上克哉理事長をゲストに迎えます。お楽しみに。プロフィール●1947年、滋賀県生まれ。教育評論家、法政大学教職課程センター長、臨床教育研究所「虹」所長。早稲田大学卒業後、私立海城高校、東京都公立中学校教師として、22年間子どもを主役としたユニークで創造的な教育実践を展開、その後大学教員に転身。それらの成果は200冊を超える著書(監修含む)、ビデオソフト、映画類にまとめられている。近著に、『尾木ママの7つの人生力 ありのままに、今を輝かせる力』(海竜社)、『尾木ママ流「叱らない」子育て』(KADOKAWA)など。尾木直樹Ogi Naoki

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