Pipette Vol.11 Spring 2016
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●グッジョブ・技師のお仕事対 談浦上克哉宮島喜文3いうテーマに、もっと深く関らなければいけないとお考えになったのはいつですか。浦上 大学病院に認知症の患者さんがこられますが、最初に「脳波をとりなさい」と教授から言われたので、脳波をとろうとしたのですが、電極をつけるや否や、患者さんがバリバリ、バリバリと取られてしまうんです。私は丁寧に説明して、「電極をつけないと検査ができないからちょっと我慢してね」と言うと、「はい、わかりました」って言われるんです。でも、すぐにそれをはずしてしまう。今考えれば、認知症の症状とはそういうものだということなんですけれどもね。いくら脳波をとろうと思ってもとれない。どの患者さんもそんな感じですから研究は進まないし、弱ったなあと思っていたところに、教授から次の指示が来たんです。予防のチャンスはある浦上 「認知症が、今、日本で、どのような実態かよくわからない。かつ、鳥取県、山陰地方で認知症の患者さんがどれだけいるかもわからないから、疫学調査をやりなさい」。それで地域の疫学調査を始めたんです。脳波をとろうと思っても全然理解してくれないような人が認知症だと私は思い込んでいたのですが、実際に地域に行ってみると、軽い物忘れをするぐらいで、あとは普通に接することができる人がいっぱいいたんです。そこで、「ああ、この病気は最初から、あのような症状ではないんだ。ゆっくり、ゆっくり進行していく病気なんだ」ということに気がついたんです。それがひとつの大きな転機となりましたね。認知症予防ができるのではないかと最初に思ったのは、実はそのときなんです。最初から、こんなひどい症状が出てくるような病気だったら、予防も何もないだろうと思っていたのですが、こんなに軽い方が徐々に悪くなってくるのであれば、きっと予防のチャンスはあるのではないかと考えました。嗅いがわからなくなる浦上 家庭訪問をして、当時、私はまだ若かったんですが、わざわざ大学病院から来てくれるということで、物忘れの検査をしに行くのにどこのご家庭に行っても大歓迎で、必ずお茶とおまんじゅうを出してくれるんです(笑)。あるとき、訪問した家で、腐ったおまんじゅうを出されたんです。保健師さんと2人で行っていたんですが、顔を見合わせて、「これはちょっと腐っているよねえ、臭いも変だよね」ということで、冷蔵庫の中を見せてもらいました。そしたら、腐ったものがいっぱい入っていて、すごい臭いがするんです。それで、「これは腐っているんじゃないですか」って言ったんですが、ご本人は、「いや、臭いはしませんけど」と言われるんですね。それがきっかけで、認知症というのは臭いがわからなくなる病気ではないかと考えるようになりました。そのときの経験が、認知症予防のアロマオイル(浦上式アロマオイルp7)を作ることにつながっています。疫学調査をやることによって、ずいぶ参考文献:池嶋千秋 ほか;老年精神医学雑誌,第25巻増刊号,2014.※もっとも多いアルツハイマー型は脳にアミロイドβたんぱくが蓄積して脳の働きを低下さ せ脳萎縮を進行させる疾患です。認知症の原因疾患別内訳アルツハイマー型※認知症67.6%血管性認知症19.5%その他 4.3%混合型認知症 3.3%前頭側頭葉変性症 1.0%レビー小体型認知症または認知症を伴うパーキンソン病4.3%

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