Pipette Vol.12 Summer 2016
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11◆知っていた? 尿のもとは血液心臓から送り出された血液は、全身をめぐりながら酸素や栄養素を運んでいき、かわりに炭酸ガスや老廃物を受け取り、さまざまな臓器で処理をされ、再び心臓へ戻ってきます。その過程で、腎臓では血液をろ過して、身体に不要なものを尿として排泄しています。◆腎臓の働き 腎臓はそら豆のような形をした重さ120~150グラムくらいの臓器で、背中側の腰骨の少し上あたりに左右1つずつあります。1日にドラム缶1本分(約150リットル)もの血液が流れています。血液をろ過しているのは、腎臓の「糸球体」と呼ばれる部分です。糸球体とは読んで字のごとく、糸のように細い血管が毛糸玉のようにくるくる集まった形をしており、血液をろ過するフィルターの役目をして、尿のもととなる「原尿」を作っています。糸球体は1つの腎臓に約100万個、2つで200万個ほどあります。この糸球体からは「尿細管」という管がつながっており、原尿からもう一度身体に必要なものをこの尿細管で選んで再吸収し、最終的に「尿」ができます。その尿は尿管を通って膀胱に集められ、ある程度の量が貯まると、尿意として脳が検知します。ほかにも、腎臓には水分やミネラルのバランスを調整し、血圧の調整、赤血球や骨の生成に必要なホルモンを分泌する働きなどがあります。◆尿からのサイン尿中のほとんどの成分は血液に由来しているので、尿の変化は身体の状態を反映しているともいえます。成分だけでなく尿量も1つのサインです。汗の量や水分の摂取量によっても尿量は変動しますが、1日に3リットル以上出る多尿の場合は、糖尿病や腎臓のホルモンの異常が疑われます。逆に1日に0・4リットル以下の乏尿の場合は、糸球体のフィルター機能が壊れていたり、尿管の通りに異常があったりすることが疑われます。◆尿検査で何がわかる? 臨床検査技師は、まず尿を目で見て外観(濁りや色)の検査をします。食物中の塩類(ミネラルなど)が出てきたり、膀胱炎などで尿中の細菌の数が増えたりした場合などで尿は濁ります。また、血液が混ざっている場合や飲料(特にビタミンC、ビタミンB群を多く含む栄養剤など)によっても尿の色が変化します。続いて、尿の成分を調べる尿定性検査、それを顕微鏡で調べる尿沈渣の検査などを行います。尿定性検査は、尿の比重やPH、蛋白、糖、潜血(赤血球・ヘモグロビン)、ビリルビン、ウロビリノゲン、ケトン体、白血球の有無などを同時に試験紙で判定します。PHは尿路結石症の治療や予防の指標になり、蛋白は腎臓や尿路の異常、糖は血糖値の高い糖尿病、潜血は腎炎や尿路結石、膀胱癌などで陽性となります。ビリルビンやウロビリノゲンは肝機能が悪化し黄疸が強くなった場合に、尿に出てくることがあります。ただし、ウロビリノゲンは健常人でもわずかに出ています。尿沈渣は、尿を遠心分離して得られた沈殿物を顕微鏡で観察します。赤血球や白血球、細菌や結晶、そのほか泌尿器系の細胞などが見られます。それらの成分の種類や量によって、異常がある部位や原因を推定することができます。多くの場合、尿は痛みを伴わずに採取でき、腎臓や泌尿器系の疾患の診断や治療効果の判定に非常に役立つ検査といえます。ルソーは被害妄想傾向があったとはいえ、彼の排尿の苦しみも今日の医学や医薬であれば大きく緩和されたものと思われます。◆尿の検査●ルソーは当時の議会制民主主義をこう喝破しました。本年、18歳選挙権で初めて1票を投じる若者にも参考になりそうな内容です。「イギリスの人民は自由だと思っているが、それは大間違いだ。彼らが自由なのは、議員を選挙する間だけのことで、議員が選ばれるやいなや、イギリス人民は奴隷となり、無に帰してしまう。その自由な短い期間に、彼らが自由をどう使っているかを見れば、自由を失うのも当然である」※前号の「蚊媒介感染症の検査」の項で写真キャプションをシナハマダラカの雄としましたが、雌(めす)の誤植でした。謹んで訂正いたします。

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