Pipette Vol.12 Summer 2016
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4宮島 暗い森は怖いですけどね。ニコル ええ。熊が来るかもしれない。でも、熊さんはここには来ませんよ、これだけ人間がいればね。だから、ここは怖くないんです。子どもたちのために明るい森をつくろうと思った。海で流された子が何人かいたから。でも、あの小さな子どもたちは、その恐怖を超えられたんです。それを見て、ぼくは思わず涙が出てね。あの勇敢な子どもたちがぼくを助けてくれたんです。ぼくは空手7段で、いろいろなことを経験してきたけれど、心の中は子どもです。怖いものがあるし、見たくないもの、思い出したくないものもある。でも、あの子どもたちを見て、ほんとうに感動して、ぼくもこれから来るだろう死の恐怖さえ超えられました。威厳、英語なら Dignity を持って年を取って、できるだけ人に迷惑をかけないで死ぬことは、何よりも大事だと思います。それが生きるということだと思うのです。あの大きな震災のあとで、震災を経験した人たちと家族のようになれて、ぼくはほんとうに日本に来てよかった。この森でやりたいこと宮島 北極やアフリカに行かれたりしたあとで、日本に居を構えて、ここ黒姫で最期まで生きようとしているわけですよね。ニコル そうです。ぼくは小さいときに強い男になる!と決めたんです。格闘技をやったり、カナダ政府の環境庁のエマージェンシー・オフィサーとして爆弾の撤去の専門家をやったりしました。そういう怖いものや恐怖に面と向かってきました。でも、人間の最期の恐怖は死ぬことでしょう。自分の人生はこれで終わるのか、天国はあるのかな……。でも、この恐怖と向き合っていた自分は、東松島のいろいろな人たち、とくに子どもたちとつき合っていくうちに、威厳のある、やさしいじいちゃんになっちゃった。ぼくはね。人を助けている人たちの助けになりたいんです。この森は、必ずそうなります。宮島 私は、この森にはじめて来ましたが、このように明るい光が降り注ぐ中で、草が生えて、新しい芽が出て、自然も回っています。生きることと死ぬことが回っているのですね。そういう移り変わりが自然の営みで、必要以上の余分な力を加えることをせずに、自然の中で自然が生まれ変わるということですよね。ニコル はい、そうです。宮島 われわれ人間もそう生きたいと、ニコルさんのお話から感じました。ニコル これから、何をやりたいかというと、この森の景色に合わせて、人類の古くからのパートナーである馬に軽い仕事をしてもらってパートナーシップを結びます。馬は鼠が嫌いだから、猫も飼います。だから、この森にブルドーザーのような機械はもう入れません。宮島 馬を入れる?ニコル 4年前から馬を借りて、隣接している国有林を開拓しています。間伐材を馬搬しているのです。今、ホースロッジを建設中で、馬を2頭、買いました。ロッジはこの夏に完成予定で、7月からは「チャチャマル」と「ユキマル」が来ます。

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