Pipette Vol.13 Autumn
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4うすればいいのに」と、たぶん、全部、言ってしまうと思うんです。そうなったら、子どものほうがいやになってしまったかもしれない。子どもからすれば、いつも監視され、ちくちく言われる状況ではなく、私も余計な一言を言わないですんだ、そういう関係性が自分の子どもにとってはよかったと思います。ほんとうに好きな柔道としてやれたのではないでしょうか。たまに、「こういうようにしたらどう?」と言うと、子どもはそれをやるんです。それが実際に結果につながっていくと、子どもなりにわかるんです。そういう関係性ができたんですよ。1年に何回しか言わないアドバイスですから、逆にうれしいと思うのではないでしょうか。普段は、アドバイスも稽古もつけてくれないけれど、たまに言ってもらえると、うれしかったかもしれないし、「やってみよう」という気持ちにもなれたのかもしれません。―私も子どもがいますが、親としてついつい口を出してしまうことが多いですね。ええ。とくに柔道は個人競技ですから、保護者の方が来ても、自分の子しか見てないです。以前、あるお母さんが、自分の子だけをずーっとビデオ撮影するので、言ったことがあるんです。「お母さん、ご自分が普段の家事をずーっと撮影されたらどうですか。気持ちも苦しくなるし、きつくないですか?」と。子どもも「変なところは見せられない」と、いちいちお母さんの顔を見るようになり、自分のために柔道をやるのではなく、親のためにやるというようになって、楽しいはずの柔道が、だんだん苦痛に変わっていきます。職場人材育成編上司は監督か演出家―お子さんが主役で、親はサポーターに徹しろという話が、ビデオの中にありました。社会人ということで考えた場合、親を職場の上司、子どもを部下に置き換えて考えてもよろしいでしょうか。私の中では、映画をつくっていると思っているんです。会社であれば部下ですが、部下を主役にして、自分は監督か演出家としてプロデュースするんです。この主役を輝かせるためには、そして、この映画を完成させるためにはどうしてやろうかなと考えるんです。そうすると、主人公が、今日はやる気がない、言うことを聞かない、センスがないとしても、この映画をすばらしいと思えるものにしないかぎり、自分の評価も落ちるわけですから、この主役をどう育てていくかをぼくの役目として徹するわけです。主役にやる気がない、へこんでいる、センスがないとしても、それらはこちらのやり方ひとつだと思えて、余計なストレスがなくなるんです。主役はもう決まっているわけですから。逆に燃えちゃいますね。さあ、彼(女)はどうしたら火がつくかな、隠れたセンスはどうしたら表に出せるかなと。そのように思ってやっているんです。自分自身が主役だと思ったら「なんでお前、やらないんだよ」となりますが、部下が主役だったら、「さあ、どうしてあげようか」というのがこちらの役目になりますから、そこは冷静にやれるんですよね。―確かにそうですね。部下から見ると、監督、つまり上司が悪いという批判を裏でこそこそ言うことになりますし、上司から見れば、出来が悪い部下だということになると、役者を代えてしまいたいという意識になりますね。でも、先生の今のお話のような意識の持ち方をすると、クリアできそうな気がします。主役以上に努力する主役が活躍できないということは、自分の力不足です。監督能力、プロデュース能力がないということになるんです。自分の力不足を自分で物語っているのだと私は思っています。私の感覚としては、主役を成長させる、

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