Pipette Vol.15 Spring 2017
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11◆認知症とは認知症は、脳の働きが低下して引き起こされる「中核症状」と、環境や体験・気質によって引き起こされる「周辺症状」に区別されます。2025年には700万人(65歳以上の5人に1人)が認知症になるとされ、国や医療界を挙げた対応策が取り組まれています。日本人に一番多い認知症はアルツハイマー型(AD)で、約6割を占めるという報告があります。次いで血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の順で多く、認知症の型は百種類以上もあるといわれています。その中には専門医が「治る認知症」と呼ぶものもあります。◆認知症の早期発見と予防認知症は早期に発見することで、本人の自覚や「危険因子」の削減、ご家族の配慮、薬物の早期投与などが可能になります。認知症になる「危険因子」(なりやすくする要因)として、加齢、遺伝、動脈硬化、生活習慣、気を失うほどの頭部外傷、喫煙、大量飲酒、うつ病、歩行障害、難聴、ビタミンD欠乏などが知られています。生活習慣病も危険因子として報告されています。当会が連携している日本認知症予防学会では、次の3つの予防が大切とされています。一次予防(発症を防ぐ)、二次予防(早期発見により悪化を遅らせる)、三次予防(リハビリ、社会参加など)。それぞれの予防ステージで各種の臨床検査が重要な役割を果たします。◆軽度認知障害(MCI)とは物忘れなどの症状があっても、家事や仕事を行うことには困っていないため、認知症の診断基準を満たさない状態がMCIで、その後、認知症に進む方もいますが、症状が改善し回復することもあります。ADでは、神経細胞の変性消失に伴う大脳萎縮や脳内老人斑多発といった病理が知られ、アミロイドベータ(Aβ)42蛋白の蓄積に始まり、年数を追ってリン酸化タウ蛋白が神経線維を変性させ、軽度認知症から認知症へと長い年月をかけて病状が進行します。Aβ42などの体内物質の増減を測定できる血液バイオマーカー検査の開発が、MCI以前の判定にも有効と期待されています。◆そのほかの検査と専門機関での受診神経心理学的検査では、大脳の異なった部位の機能障害を対面式の質問や筆記テストなどで確認します。認知症のスクリーニング検査として、MMSEや日本で開発された長谷川式簡易認知症スケール検査(HDS―R)、パソコンソフト「物忘れ相談プログラム」などが利用されています。 脳内の状態を確認できる画像検査であるCT、MRI、SPECT、PETや近赤外光を用いるNIRSなども認知症の鑑別診断に利用されます。ADでは、大脳の海馬が委縮して記憶障害が起きますが、これに大脳辺縁系の嗅神細胞の損傷が影響します。匂いに鈍感になるという初期症状の発見に嗅覚検査が有効とされます。睡眠検査も認知症の早期発見に注目されています。これらの検査の多くは臨床検査技師が担当できます。本人やご家族がもしかしたら認知症の前兆では?と感じたら、恐れずに早めに専門医の物忘れ相談を受診したり、検査を受けたりすることが一番の安心につながります。高齢者運転事故の予防にもこうした診断や検査が必要として、本年3月、道路交通法が改正されました。●「私たちがこのことを公にすることで、人々のこの問題に対する意識をいい方向に改善する可能性があると思います」と書いて、レーガンは自分の病を公表しました。●一方、盟友で、「鉄の女」と称されたサッチャーは、政界引退後の75歳ごろに血管性認知症を発症したといわれています。病態の進行軽度認知障害プレクリニカルアミロイドペプチド蓄積(CSF/PET)シナプス機能障害(FDG-PET/fMRI)タウ介在神経細胞障害(CSF)脳構造(容積測定MRI)認知機能臨床機能正常異常認知症◆認知症予防のための検査*文中挿入図はADの仮説的モデル:Sperling R.A.et.al: Alzheimer’s dementia,1(2011)

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