Pipette Vol.15 Spring 2017
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2東日本大震災の被災者供養のために地蔵菩薩を彫り、宮城県気仙沼市に「気仙沼みちびき地蔵堂」を建立した俳優の滝田栄さんに仏像彫刻や仏教研究についてうかがいました。ゲスト 滝田 栄聞き手 小澤 優     (日本臨床衛生検査技師会理事)     (京都保健衛生学校 教務部長)仏像彫刻編鉛筆を削るように―私は、見かけの風貌や職場が京都のせいか「僧籍をお持ちですか」と聞かれます(笑)。実際には京都の専門学校で臨床検査技師を養成する仕事をしています。昼間だけでなく、夜間の臨床検査技師コースがあるのは全国で2校です。昼間は仕事をして、夕方から学校に来て真剣に勉強している学生が多いというのが、わが校の自慢です。 私も仏像彫刻に興味があり、機会があればぜひチャレンジしたいと思っているのですが、仏像彫刻は難しいものでしょうか。ぼく自身も、最初は「難しいのでは」と思っていて、そのアプローチの仕方もわからなかったです。たまたまプロの仏師にお会いできたときに同じことを聞きましたら、「鉛筆をナイフで削ることができれば誰でも仏さまは彫れます」と言われ、その一言で「それなら、ぼくでも彫れる!」って決めました(笑)。ぼくが子どものころは、小刀で、みんな上手に鉛筆を削っていましたから、それくらいならと始めたんです。そうしたら、すぐに彫れました(笑)。―特別な才能をお持ちなのでは?いえいえ。鉛筆を削るように丁寧にやれば、仏さまは必ず向こうから出てきてくれます。数年前、『千の風』を歌っている秋川雅史さんが「教室で仏像彫刻を始めて、仏手、仏足だけを削る練習をしています」と、自分で削った小さな仏手、仏足を見せてくれたんです。ほんとうに美しく削れていたので、「秋川さん、これならすぐにいけます。近いうちに、ぼくのようにでっかいのをやりたくなりますよ」と話しました。この間お会いしたら、もう如来像を彫って、お寺に寄進していると。これは、大変なものですよ。わずか3、4年ですからね。―仏像を彫っていると、「中から仏さまが現れてくる」のですか。ええ、必ず。ぼくのイメージの中に、仏さまはこういう姿でいてほしいと感じたときに、それを木の中から取り出すわけです。何もなくて木の中から出てきてくれるという言い方は、ちょっと飛躍していると思います。「こんな夢を見た」で始まる夏目漱石の『夢十夜』の中に、護国寺の門前に仏師(運慶)が現れて、突然、木を彫り出すという話があります。見事な仏がどんどん現れて、それを見ていた人(漱石)が「どうしたら、こういうものが彫れるんですか」と聞くと、「彫るんじゃない、向こうから出てくるんだ」と。その話を聞いて、それならやってみようと思い、家に帰って削ってみるわけです。それで、「出てこい、出てこい」と言って彫っていたら、木がなくなってしまったという話があります(笑)。やはり自分なりのイメージがないと難しいでしょうね。ぼくは、観音菩薩だけではなくマリアさまみたいなやさしい存在がすごく好きなんです。そういうお姿をイメージして、絵を描いて、それから彫っていきます。思いつきで木に向かって削ると、絶対に失敗します。この木から、この大きさで、こういうものを彫りたいと思ったときに、前後、左右、上下からのデッサンをきちっと行って、それからいらないところを削り取ってい

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