Pipette Vol.15 Spring 2017
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8座禅はすべてを完全に充実させる。肉体のドライバーとしての魂を浄化して、一番調和の取れたエネルギーを実現する作業だと思います。それができるようになると、エブリシング・ポシブル(なんでもできてしまう)。そのためのひとつが呼吸法だと思います。―静かな世界ですね。ええ。しかし、座禅は難しいです。浮世を超えることに成功した本物の師に会って導かれないと、なかなか学べるものではないと思います。「喝」というのは禅の言葉ですが、「喝を入れる」というような使われ方をしてしまいました。これは、禅とはおおよそ関係がない、兵士たちをきちんと整列させる規律統制のために使われてしまった。ほんとうの禅、つまり、仏さまの教えと一体になることはとても難しいことで、悟りを得た師のもとで、自分の心を知って、心を静めなければなりません。呼吸を整えるということでは、今は、「マインドフルネス」という言葉で、外国人が逆に教えてくれている部分があります。日常の忙しさで荒れてしまった心とか、波打っている心の人が多いですね。静かで穏やかな心ではなく、常に揺れていて、中には暴風雨のような心になってしまっている人もたくさんいます。そこから、静かで明るい迷いのない心を取り戻すのが呼吸法です。ベトナムの有名なお坊さんのティク・ナット・ハンという人がいます。ベトナム戦争中の戦禍を体験したお坊さんで、ほんとうの心の静けさと会えた方です。彼が、アメリカやヨーロッパで若者たちに呼吸法を説いたときに使ったのが、「マインドフルネス」という言葉です。乱れた心を穏やかな心に変える方法です。禅の入門編としては、現代人にやさしく説明されていますよ。呼吸を静かにするだけで、理想的な自分を実現するんです。これは禅も同じです。背中を伸ばして、正しい姿勢で、顎を引いて、固まらないで真っ直ぐにして、目は前に落として、その中で静かに吸って、吐いて、何も考えずに呼吸だけになる。朝に晩に、数分だけでいいですからやってみてください。言葉を換えれば、このような感じです。やってみましょう。ゆっくりと、しぼむイメージで(吐いて)――ゆっくりと、ふくらむイメージで(吸って) ――これを繰り返してください。これだけで心が静かになってきます。この静かになった状態、この呼吸を維持できれば、頭はさわやか、囚われから解放されますよ。―ああ、瞬間ですが、今、落ちついた安定した気持ちになりました……。禅の入門は、そんな感じです。ただ、権威をつけるためにあまりにも難しくしすぎてしまっているのと、できてない人が教えるから駄目なんですよ。棒で殴っちゃったりしますからね(笑)。警策は気持ちがいいんですが、心得ていない人が殴ったら怪我をしますから。インタビューを終えてご親族の死から仏像そして仏教へと導かれ、真摯にご自身を見つめる滝田さんの心の有り様に触れることができ、大変有意義でした。      *次回は、ノーベル生理学・医学賞受賞者でもある大村智氏をゲストにお迎えします。どうぞお楽しみに。プロフィール●1950年千葉県生まれ。文学座養成所から劇団四季を経て独立。テレビでは『草燃える』『なっちゃんの写真館』『マリコ』『徳川家康』など多数出演。『料理バンザイ』の司会を20年間務めた。舞台『レ・ミゼラブル』主役ジャン・バルジャンを初演より14年間演じる。映画『不撓不屈』で主演。2013年、東日本大震災の被災者の供養のため地蔵菩薩を彫り、宮城県気仙沼市に「気仙沼みちびき地蔵堂」を建立。東北福祉大学客員教授、仏像制作、仏像の研究に取り組む。著書に『滝田栄、仏像を彫る』(毎日新聞社)。滝田 栄Takita Sakaeティク・ナット・ハンベトナム生まれの禅僧。コロンビア大学、ソルボンヌ大学でも教鞭を執る。ベトナム戦争のパリ平和会議に宗教者代表として出席。©春秋社

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