Pipette Vol.17 Autumn 2017
4/12

4やってみてください、と。これがパイオニア精神です。はじめのうちは、「所長が絵を買い込んできた。これはどうなるんだろう」と思った関係者もいたようですけれどね(笑)。後に北里研究所と北里学園を経営統合させることになったとき、多額の赤字を背負い込んだということがないようにするため、双方の財産をきちんと調べ、監査を受けて、絵についてもきちんと評価しました。そのとき、私が買った絵が3分の1や、5分の1になっていたら、「大村はえらい無駄をしたな」と言われるかもしれないと内心、心配していたのですが、実際は、私が買ったときの価格の3倍の評価を受けました。私の見る目が間違ってなかった。私なりの評価をして、これは価値があると判断していたわけです。―お宝鑑定団に出すより、大村先生に持っていったほうが確かかもしれないですね(笑)。癒しのある病院への工夫―KMC病院のエントランスにあるピアノもすばらしいですね。私は、病院の大きなエントランスホールで、ピアノコンサートを開くことを考えていましたから、丸天井にして明かりを採り、音響効果も考えて設計をしたのです。あのホールで、市民コンサートを何十回やったかわからないですね。病院にそういうものを本格的に持ち込んだのは、私のところが最初ではないでしょうか。―この冊子「ピペット」への読後感想ハガキには、それまで親族の定期検査や外来診察に付き添うのがつらかった、この冊子を読む楽しみが増えて苦でなくなったという大変光栄な読者の声もあります。このように、病院というのは好きで行くところではないという厳然とした事実があるような気がします。病院というのは単なる医療面の貢献だけでなく、文化を担っていくという一端もあるということですね。いいと思ってやったことですが、それでも批判はあるんですよ。みなさんからの意見が病院に寄せられるのですが、絵に関するものは、私のところに届けるように言ってあって、その中に、「暗い絵が多いところがあるので、それを変えてほしい」というのがありました。すぐに指示をして、場所を変えるようにしました。雰囲気が暗くなるからよくないということだと思いますから、場所を移すだけで変わります。暗い絵でもいいものはいいですからね。とにかく、絵は1700点から1800点ぐらいありますから、それらすべてを、患者さんや来られる方に気に入っていただけるとは思っていません。いろいろな人の見方がありますからね。だけど、なるべく要望に応えて、楽しんでもらうということが大事だと思います。―増築された新病棟にある産科フロアも拝見させていただきました。暖かなイメージの絵が統一したコンセプトで描かれていますし、新病棟の階ごとの表示色を変えるなども先生のご提案とお聞きしました。総合プロデューサーとしての面目躍如ですね。あのようにやるには、やはり勇気もいります。おカネが余計にかかるかもしれないし、協力してくれる専門家を連れてくる力もいるだろうし。だから、トップがそういう気持ちになっていなければ駄目ですね。一人のお医者さんだけが絵が好きで、勝手に絵を買い込んだりしても、これは長続きしません。やはり、病院を運営するトップが、強い気持ちで企画を長続きさせるということが大事だと思います。世の中の役に立つことを一生懸命やっていると、応援者が現れてくるということをつくづく感じています。何人もの有名な芸術院会員クラスの先生が、普通で買ったら何百万、何千万するような絵を、病院に寄付してくださるんです。損得抜きで、必要だと思ったことをやっていくと、人を呼び込むと言ったらいいのか、必ず共鳴してくれる人が出てきてくれるのです。―「絵のある病院」づくりでは「人間讃歌大賞展」という企画を通じて展示作品を増やされまKMC病院全景 ※平成20年、経営統合により「北里大学メディカルセンター病院」に改称KMC病院エントランスホールのグランドピアノ病院内の待合だけでなく通路にも数多くの絵が展示されている新病棟内の産科フロアはメルヘンを感じさせる心休まる絵で満たされている

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る