Pipette Vol.17 Autumn 2017
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●グッジョブ・技師のお仕事ゲスト 大村 智7しがあったのですか」、「先見の明ですか」と。「とんでもない、先見は真っ暗だったけれど、その中で明るくしていった」と話します。私が、先の先まで読んで、先がわかってそれをやったように受け取られているみたいですが、そうではないです。どうしたらいいかを、自分なりに考えていったというだけの話です。ただし、「実じっ践せん躬きゅう行こう」の考えがあるから、言い出したら実行するよと(笑)。一期一会、感動を力に―先生は2007年、韮崎大村美術館と収蔵展示品を韮崎市へ寄贈されましたが、1階常設展示には多彩な女流作家作品が並んでいます。人真似をしない、オリジナリティを尊重する、これが私の基本的な考え方です。1階の展示場に女流画家の常設展を配置するというのは、日本で最初です。ここでも私の考え方が生かされているということですね。女子美の理事長を務めたことで、その間に知り合ったいろいろな関係者から、いい作品が手に入るようになりました。そのうちに、ほかの大学を出た女流画家の作品も入ってくるようになった。女子美の理事長になったということが、この美術館の原点かもしれません。―先生の評伝を拝読して「輪廻」ということを強く感じました。すべての経験やご苦労が次につながって、人脈が新たな人脈を掘り起こしていくような感覚です。評伝でも先生は頻繁に感激や感動をされていますね。そうですね。人生で一番大事なことは、物事に感動するということです。感動することがなかったら、人間は生きている意味がないです。感動するためには、自分がそういう立場にいないといけない。損得抜きで信じることをいろいろやっている、そういった中での発見や出会い、そして、感動する心が生まれてくるわけです。私は、80歳すぎまでいろいろやってきて、失敗もありましたが、それでもよかった、まあまあいい人生を送ってきているなという感じがします。それは常に感動してきたからです。物事に感動するためには、自らの生活における姿勢が大事なのです。「一期一会」。これは、私がみんなに言う言葉です。「一期一会を大事にしなさいよ」と。インタビューを終えて一生懸命、頑張っていると周りが認めてくれて、それで人脈が広がり、思いもかけないところで天からの贈り物のような助けがある。「至誠天に通ず」を信条とした吉田松陰先生も、大村先生に「この言葉は君に贈るよ」と言っているような気がしました。(取材 平成29年4月17日)      *次回は、将棋界で数多くのタイトルに輝く、羽生善治さんをゲストにお迎えして,将棋の奥深い魅力や人工知能(AI)とのつきあい方などについてうかがいます。お楽しみに。北里研究所立て直し実績と絵画・陶芸への造詣の深さから、頼まれて女子美術大学(以下、「女子美」)の理事に就任、その4年後には理事長に就任して100周年記念事業を達成、一度退任後、理事長に再任されて110周年記念事業だけでなく、学部・学科の再編にも貢献。る有用な天然有機化合物の探索研究を45年以上行い、これまでに類のない480種を超える新規化合物を発見し、それらにより感染症などの予防、撲滅、創薬、生命現象の解明に貢献。また、化合物の発見や創薬、構造解析について新しい方法を提唱・実現し、基礎から応用までの幅広く新しい研究領域を世界に先駆けて開拓している。自身のコレクションをもとに韮崎大村美術館を設立(韮崎市へ寄贈)して、館長も務める。専門書以外の著書に『人生に美を添えて』(生活の友社)、『人をつくる言葉』(毎日新聞出版)ほか。大村 智Omura Satoshiプロフィール●1935年山梨県生まれ。日本学士院会員、北里大学特別栄誉教授、学校法人女子美術大学名誉理事長。文化功労者、文化勲章受章。2015年ノーベル生理学・医学賞受賞。微生物の生産す奥様・文子さんがプロデュースした彫刻「風の詩」1998年 石黒光二作KMC病院に隣接する大村記念館ノーベル賞のメダル韮崎駅前看板「一期一会 縁があっても気が付かない人、生かさない人がいる。出会いを大事にすることが人生では大切」

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