Pipette Vol.18 Winter 2018

11/12

11◆脂質異常症とは一般に知られた「高脂血症」という表現は、血中のコレステロールやトリグリセライド（中性脂肪）が増加する状態をさします。コレステロールもトリグリセライドも水に溶けず、特殊な蛋白質（アポ蛋白）に付着して血液中を運ばれています。このコレステロールやトリグリセライドとアポ蛋白の複合体を「リポ蛋白」といいます。「リポ蛋白」にはいくつかの種類があり、その比重により、ＶＬＤＬ（超低比重リポ蛋白）、ＬＤＬ（低比重リポ蛋白）、ＨＤＬ（高比重リポ蛋白）などに分類されています。コレステロールには善ぜん玉だまと悪あく玉だまがあるといわれますが、コレステロールに違いがあるのではなく、どのリポ蛋白によって運ばれているのかの違いによるものです。悪玉とされるＬＤＬコレステロールは血管壁に取り込まれて蓄積し、動脈硬化を起こします。一方、善玉とされるＨＤＬコレステロールは血管や組織に蓄積したコレステロールを引き抜いて運びます。このＨＤＬコレステロールが少ない場合に動脈硬化を起こしやすくなるため、「高脂血症」という症状名は不適切ではないかという考えから、日本動脈硬化学会では、２００７年より低ＨＤＬコレステロール血症を含めた血中脂質の異常を「脂質異常症」という症状名に変更しました。トリグリセライドは主にＶＬＤＬコレステロールによって運ばれています。近年、注目されているのが動脈硬化を促進させる点で超悪玉ともいわれるレムナント様リポ蛋白コレステロールです。このコレステロール量を直接検査測定することも可能ですが、「総悪玉コレステロール」（悪玉＋超悪玉）として、総コレステロールから善玉を引いた検査数値である「Ｎｏｎ─ＨＤＬコレステロール」を診断に使用します。◆脂質異常症の検査血中のＬＤＬコレステロールやトリグリセライドが増加したり、ＨＤＬコレステロールが減少したりすると動脈硬化が起こりやすくなります。そこで、血液検査で血中の総コレステロール、ＬＤＬコレステロール、ＨＤＬコレステロール、トリグリセライドなどの値を測定して診断します。朝食前の空腹時に採血します。◆脂質異常症　の原因一番の原因は、高カロリー高脂肪の食事と運動不足などの生活習慣です。喫煙や受動喫煙も原因の一つです。原発性の脂質異常症もあります。日本人５００人に１人とされる家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体では、コレステロール値が高くなる遺伝子を両親のうちどちらかから受け継ぎます。家族性高コレステロール血症ではアキレス腱けん肥ひ厚こう、腱けん黄おう色しょく腫しゅ（手の甲、肘、膝の腱にできる硬い盛り上がり）、眼がん瞼けん黄おう色しょく腫しゅ（まぶたにできる黄色い斑点状の盛り上がり―『モナ・リザ』で推論―）、角かく膜まく輪りん（黒目の周囲にできる白い輪）が見られることがあります。動脈硬化の予防、さらには狭心症や心筋梗塞の予防のためにも、健康診断の定期受診や専門医療機関の受診、生活習慣の見直し改善などが有効です。●１９１１年、名画『モナ・リザ』はパリ・ルーブル美術館から盗まれ、同美術館に批判的だったフランス人詩人のアポリネールが逮捕され、その知人であったパブロ・ピカソも連行・尋問されました。●事件発生の２年後に判明した真犯人は、かつて同美術館の職員だったイタリア人のペルージャで、イタリアの美術館に作品が収蔵されるべきだと犯行の動機を語り、この愛国的行動は賞賛されて禁固刑も６カ月と軽く、『モナ・リザ』はイタリア国内を巡回展示されたのちに、ルーブル美術館へ返却されました。◆脂質異常症の検査脂質異常症診断基準（空腹時採血）＊LDLコレステロール140mg/dL以上高LDLコレステロール血症120～139mg/dL境界域高LDLコレステロール血症＊＊HDLコレステロール40mg/dL未満低HDLコレステロール血症トリグリセライド150mg/dL以上高トリグリセライド血症Non-HDLコレステロール170mg/dL以上高non-HDLコレステロール血症150～169mg/dL境界域高non-HDLコレステロール血症＊＊　＊10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。＊＊スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。　●LDL-CはFriedewald式（TC－HDL-C－TG/5）または直接法で求める。　●TGが400mg/dL以上や食後採血の場合はnon-HDL-C（TC－HDL-C）かLDL-C直接法を使用する。ただしスクリーニング時に高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。日本動脈硬化学会（編）：動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版より