Pipette Vol.18 Winter 2018
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●グッジョブ・技師のお仕事ゲスト 羽生善治7本は得意だし期待できます。健康な脳とは―将棋の対局中やその準備などで脳をフル回転。体重も2、3キロは落ちるということですね。「将棋は頭脳スポーツ、棋士はアスリート」という発言を羽生さんはされていますが、リフレッシュはどのようにされるのですか?まあ、のんびりしています。お茶を飲んで外の景色を眺めているとか、休みのときは将棋から離れてということですね。―私などはこのインタビューで前日から考えてしまって頭を空っぽにできないタイプです。10代のころは、切り替えもなかなかすぐにはできなかったのですが、だんだん年をとるとできるようになりました。―その日の試合の結果はその日のうちに総括して、仮に負けても引きずらないですか?勝っても負けても、総括したらすぐ忘れるようにしています。総括はしないと同じミスを繰り返すからするわけですが、その後は一切思い出さないです。感想戦のような形で、対局の直後に総括できることもありますし、終わってから自分なりに考え直して総括します。一度眠れば切り替えやすいので、そこでリセットするようにします。―睡眠というのは肉体にも頭にも重要で、認知症でも睡眠の質とか時間が大事だとわかってきました。睡眠検査は私たち臨床検査技師の仕事の一つです。うまく眠れたときというのはありますよね。睡眠時間の長さではなく、睡眠の質というのはあるような気がします。たとえ5分とか10分の睡眠でも、そこでリフレッシュできるので、小休止して疲れをとることも有効です。―羽生さんは本の中で、「今の最善はすぐ過去になる」と研究の大切さに触れています。私たちは好きなことには向上心も持てますが、嫌いなことに向かうときの秘訣はありますか?ちょっとずつでもやっていくということでしょうか。私は規則正しく練習はしていないのです。何時から何時までと決めることはありませんし、集中するときは集中するほうですね。聖さとしの青春―「東の羽生、西の村山」と言われ、29歳で夭逝された村山聖さとし八段と羽生さんの最後の対局を描いた映画『聖の青春』を拝見しました。そのNHK杯決勝では、村山優勢の終盤に、村山さんのポカともいえる一手が原因で羽生さんが逆転勝利しました。村山棋士の思い出とか、なぜ村山棋士はあの一手を指してしまったのだろうという点はいかがですか?村山さんは、たしか2月末ころの時点で、4月から入院療養で休場することは決まっていたんです。それまでにたくさんの対局をこなさなくてはいけないということで、対局が続く中で、調子はよかったと思うんですけどエアポケットというか、連戦の疲れがその一手に出てしまったという印象でした。全体としては村山さんがうまく指していたのですが、最後のところだけ非常に残念だったんじゃないかなあと思います。―「ネフローゼ」という腎臓の難病だったそうですから、時間がたつと体力が落ちます。ええ、終盤戦になると、彼は本当にしんどそうなんです。けれども、そういう時に限って、彼はいい手を指すんですよ。そういう状態で冴えてくる。彼の対局を見ていても、身体が大丈夫かなと心配になるところで、人が思いもつかないような手を指すことは何回もありましたね。村山さんは、次がいつもあるという感覚は持っていなかったので、この一局この一手にすべてを賭けていく気持ちが10代のころから強かった人でした。そこが指し手に表れていたのではないかと思います。20歳くらいなら負けても次があると考えて、次の対局に臨むのが一般的なのですが、そういう感覚は彼にはなかったですね。将棋の醍醐味―将棋の醍醐味もしくは将棋の魅力について教えてください。⑧⑧「聖の青春」2016年劇場公開。主演:松山ケンイチ(村山役)・東出昌大(羽生役)。配給:KADOKAWAⓒ2016「聖の青春」製作委員会

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