Pipette Vol.21 Autumn 2018
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4のことを思いやるということでしょうか。その「場」が暗めであるというのは、お互いによくないですし、「場」の雰囲気に責任を持つという「当事者意識」からでしょうか。だれかが自分の機嫌を取ってくれると思うのは、少し子供っぽい感じです。青年期は不機嫌であってもしかたないんです。まだ大人になっていないわけですから。でも大人になってきたら、「軽やかに」ということですね。老いてもチャレンジ―人生50年、60歳還暦、といった過去の感覚からすると、人生80年、最近では人生100年とまでいわれるようになっています。人生の後半を生き抜く考え方とは何でしょうか。年を重ねて、年々、経験が増えるわけですから、その分、勇気が出やすいと考えるわけです。普通、若いほうが元気だから勇気も出るように感じがちですが、経験値が高いほうがいろいろわかっているわけですから、安心して踏み出せます。新しいチャレンジも、世の中を知っているほうが勇気を持ちやすいでしょう?それから、「学び直し」というのもいいかなと思います。『論語』で、學而時習之、不亦説乎――学びて時にこれを習う、亦(ま)た説(よろこ)ばしからずや――とあります。昔習っていて、しばらく遠ざかっていたものを、もう一度やると、結構テンションが上がります。自分の生活に推進力が出ます。―私も子供の算数とか理科の勉強に付き合ったりすると、「ああ、こういうことを昔、勉強したなあ」と感慨深いです。大人になったほうが中学、高校の教科も面白くなったりします。古文でも、大人になって『平家物語』を音読してみると、「ああ、なかなかいいものだなあ」と(笑)。患者さんとのコミュニケーション―先生が開発され、長年実践されている「マッピング・コミュニケーション」というメソッドは、私たち医療の現場でも応用可能でしょうか?臨床検査技師の日々のお仕事は、検査測定とか採血、検体採取など、というお話ですね。であれば、手のほうが忙しくて、普通は書いてはいられませんよね。私の「マッピング・コミュニケーション」は紙に書くのが基本なので。けれども、ちょっと複雑な内容を患者さんに説明する際に、キーワードを二つ三つ書いて、矢印などで、関係や順序を示す。例えば、「この検査の意味はこうで……」と説明する場合、キーワードを結んで文字にして見せてあげると、患者さんの理解が進むでしょう。―患者さんに検査説明を行う機会は増えています。視覚的に示すというのはいいやり方ですね。例えば、身体図のような紙があれば、そこに手書きの赤矢印で「ここです」というふうに示す。言葉だけで聞くよりも、目で見て理解できます。「手書きの威力」というのは大きくて、手朝日新書2016年 若い頃というのは仕事や家庭生活が忙しく、一つのことにどっぷりとはまる時間的、精神的な余裕もないものです。また、インプットした知識をすぐにアウトプットする必要に迫られる場合も多いでしょう。 けれど現役を引退したあとなら、生産性や効率性を気にする必要もありません。一つの世界にじっくりと時間をかけて向き合うことができます。 また残りの人生の時間を考えると、やりたくないことをやっている暇はないと思うようになります。自分がやりたいことがより鮮明になり、物事の取拾選択がしやすくなるのです。 ですから考えようによっては、現役を退いてからの時間はさまざまな艱難辛苦を乗り越え、ようやく訪れた人生のゴールデンタイムとも言えるのです。(『年を取るのが楽しくなる教養力』から)

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