Pipette Vol.21 Autumn 2018
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9◆肺炎とは肺炎とは、主に細菌やウイルスが肺に感染して炎症を起こす病気です。がん、心臓病、脳卒中に続いて、日本人の死亡原因の第4位です。肺炎で亡くなる患者さんの9割以上が65歳以上の高齢者で、年齢別死亡原因の統計で、肺炎は85歳以上では第2位、90歳以上では第1位となっています。病原微生物の多くは空気と一緒に身体の中へ入ってきます。普通は、人間の身体に備わっているさまざまな防御機能が働いて、これを排除します。しかし、何らかの原因で体力や抵抗力が落ちていて、病原微生物の感染力のほうが上回ると、肺炎になるのです。感染環境による分類では、日常生活を送っている人が、病院・診療所の外で感染し発病する「市中肺炎」、何らかの病気のために病院に入院中の方が、入院後48時間以降に感染し発病する「院内肺炎」の2つに分けられます。病原微生物の種類による分類では、「細菌性肺炎」(肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌など)、「非定型肺炎」(マイコプラズマ、クラミジアなど)、「ウイルス性肺炎」(インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、水痘ウイルスなど)の3つに分けられ、それぞれ治療薬が異なります。複数の菌が混合感染している場合もあります。◆呼吸器の機能と肺炎の症状私たちが呼吸をするとき、空気はまず鼻から入り、のど、気管、そして左右に分かれる気管支を通って、肺に入ります。これらの呼吸に関わる器官をまとめて「呼吸器」と呼びます。呼吸器には、空気と一緒にウイルスや細菌などの病原微生物が入ってくると、それらをさまざまな仕組みで排除し、身体を守る機能が備わっています。まず、鼻毛や鼻の粘膜、のどの粘膜で大きな粒子を捕えます。そこで捕えられなかった小さな粒子が気管に入ると、咳をして勢いよく外へ出してしまいます。それでも残ったものは、気管支に生えている線毛という細かい毛がこれを捕え、1秒間に15回というスピードで動いて、外へ追い出します。また、人間の身体には「免疫」によって病原微生物を排除する力が備わっています。咳や熱が出ている状態は、この免疫が一生懸命働いて病原微生物と闘っているときです。免疫の働きによって、たいていは気道の軽い炎症程度で治ってしまいますが、気道の炎症がひどくなって呼吸器の防御機能を上回った場合や、病気やストレスのために免疫力が落ちているときなどは、病原微生物が上気道から下気道、そして肺にまで入り込んで感染し、肺炎になってしまうのです。肺炎の症状としては、高熱、咳・痰、呼吸困難、胸痛のほか、食欲不振、倦怠感、筋肉痛、頭痛などの症状が出ることがあります。◆肺炎の検査と治療問診や聴診などの診察の他に、次のような検査があります。●肺炎であるかどうかを調べる検査画像検査……X線撮影やCT検査血液検査……血液中のCRP、白血球数、赤沈、酸素濃度●病原微生物を調べる検査喀かく痰たん検査……喀痰中の微生物を短時間で推定する検査と、時間をかけて菌を培養し微生物を特定する検査迅速検査……鼻腔や咽頭から採取した検体でのインフルエンザウイルス検査や、尿から肺炎球菌やレジオネラなどを推定する検査肺炎の多くは、適切な治療を行うことで完治できる病気ですが、高齢者の方や慢性の病気を持っている方、呼吸器系の病気を持っている方などは、健康な方に比べて肺炎になりやすく、治りにくい傾向があるので、とくに注意が必要です。治療が遅れると、重症化し命にかかわることもあります。肺炎が疑われるときは、早めに病院・診療所を受診して治療を受けることが重要です。現在、厚生労働省では65歳以上を対象に、高齢者肺炎球菌ワクチンの定期接種を実施しています。肺炎の治療では、病原微生物を死滅させる抗菌薬が中心となります。抗菌薬は、化学的構造によって、セフェム系、ペニシリン系、マクロライド系、キノロン系などの種類に分かれています。ベータラクタム系(セフェム系、ペニシリン系など)は、細菌の形を保っている壁(細胞壁)を作るのを妨げることで細菌を死滅させます。マクロライド系は、病原微生物が活動するために大切なタンパク質を作らせないことによって、増殖を抑え死滅させる作用があります。キノロン系は、病原微生物の遺伝子を作らせないことによって、増殖を抑え死滅させる作用があります肺その他、さまざまな症状をやわらげるために、咳を鎮める鎮ちん咳がい薬やく、熱を下げる解熱薬、痰を出しやすくする去痰薬、息苦しさや咳をやわらげる気管支拡張薬などが、症状に応じて処方されます。◆肺炎の検査●「チャーチルはフレミングに2度命を救われた。1度目は少年時代に沼でおぼれていたところをフレミング青年に助けられ、2度目はペニシリンによって肺炎から救われた」と米国のヴィンソン財務長官がスピーチで述べたのは、〝フェイクニュース〟でした。チャーチルはフレミングより7歳年上で、また、肺炎から救ったのはサルファ剤でした。フレミングは1928年、ペニシリンを発見したものの実用化できず、1940年、フローリーとチェインが精製に成功。この3名はドーマクより早く、1945年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。●第二次大戦後半の1942年、米英では、戦傷者を劇的に治療できるペニシリンの研究は「国家機密」に指定されました。

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