Pipette Vol.22 Winter 2019
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9◆パーキンソン病とはパーキンソン病とは、手の震え・動作や歩行の困難など、運動障害を示す進行性の神経変性疾患です。病名は1817年に英国人のパーキンソンが「振戦麻痺」という名で6症例を紹介したことに由来します。近年ではボクシングのモハメド・アリさんや映画俳優のマイケル・J・フォックスさんのような著名人も罹患しています。1912年に、ユダヤ人のレビーがパーキンソン病患者の脳内で発見したレビー小体は、その後の研究で中心成分はα‐シヌクレインであり、神経細胞の変性・脱落に伴う障害をもたらす原因成分となります。レビー小体が主に中脳黒質などの脳幹に現れると、パーキンソン病になります。中脳黒質の神経細胞はドパミンを産出しますが、変性・脱落することでドパミンが減少し、アセチルコリンの作用が相対的に勝り、パーキンソン病の症状につながります。レビー小体が主に大脳皮質に広く現れると、レビー小体型認知症になるとされています。レビー小体は脳内の神経細胞だけでなく、末梢自律神経系にまで及ぶことから、パーキンソン病もレビー小体型認知症も、さまざまな自律神経症状を引き起こす〝全身病〟といえます。この2つの疾病は「レビー小体病」と総称され、パーキンソン病15万人、レビー小体型認知症90万人と推計され、そのうちの10万人は、認知症を伴うパーキンソン病患者とされます。中年以降の発症が多く、高齢になるほど発症率や有病率は増加します。運動症状として、①動作が遅くなる「運動緩慢」、②筋肉が硬くなる「筋強剛または筋固縮」、③手足が震える「振戦」、④姿勢・バランスがうまく保てない「姿勢保持障害」が見られます。運動症状の程度を把握するための「ホーン・ヤールの重症度分類」では、片側のみに症状が見られる「ステージ1」から、車いすあるいは臥床状態の「ステージ5」まで、5段階に分類します。発症後10年で、多くの場合「ステージ3」(姿勢保持障害を認める)以上になるとされています。非運動症状としては、便秘、起立性低血圧による立ちくらみ、排尿障害、抑うつ、幻覚、認知障害、不眠、日中の過度の眠気などが見られます。最近では、レム睡眠行動障害、嗅覚障害、感覚障害も早期診断につながる重要症状として注目されています。◆パーキンソン病の検査①血液検査……他疾病の除外目的として実施(パーキンソン病で血球検査、生化学検査などの異常は見られないため)②自律神経機能検査……「能動的起立試験」「ヘッドアップティルト試験」、「心電図RR間隔変動係数」など③嗅覚検査……「OSIT─J」(日本人向け匂い識別検査法)など④経頭蓋超音波検査……中脳黒質の病的な高輝度変化の確認⑤形態画像検査……脳CT、脳MRI(脳内の器質性病変や萎縮場所・程度を調べる。MRIでは類縁疾患の除外)⑥機能画像検査……MIBG心筋シンチグラフィ(心臓交感神経の障害判定、パーキンソン病と類似疾患との鑑別)、ドパミントランスポーターシンチグラフィ(ドパミン神経減少の有無の確認)、脳血流シンチグラフィ(血流低下部位の描出)⑦髄液検査……ホモバリニン酸(脳内ドパミン分泌減少を把握)、α─シヌクレイン(レビー小体の主要な構成成分)の測定◆パーキンソン病治療の可能性現在、根本的な治療法はまだありませんが、ドパミン系の補充をするなどの薬物療法があります。ドパミンに関係する脳内部位に電極を埋め込み、弱い電気刺激を与える外科的手術も有効です。有酸素運動やストレッチなどのリハビリテーションは、生活に支障がない状態を長く保ち、薬物使用も最小限ですむ効果があります。声が小さくなる、早口になる、声がかすれるなどの症状に対しては、大きな声で本や新聞を読んだり、カラオケを歌うというリハビリテーションが有効です。遺伝子治療として、2018年8月から、iPS細胞から作った神経細胞を患者の脳に移植する「医師主導の臨床試験」がわが国で開始され、その成果が世界的に注目されています。◆パーキンソン病の検査●50年も昔の実話となります。少年は、当時奈良の薬師寺管主であった高田好胤さんの著作を読んで、文中に紹介引用されていた詩はどこで読めますかというお手紙を薬師寺宛に送りました。●しばらくして少年のもとに薬師寺管長室からガリ版で印刷しホッチキスで止めた手製の泣菫詩集『子守唄』が届きました。(写真は現物)

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