Pipette Vol.23 Spring 2019
11/12

11◆内分泌異常症とは甲状腺、副腎、膵臓、下垂体、副甲状腺、卵巣、精巣などから分泌されるホルモンのバランスが異常を示すと、全身各所にさまざまな症状が引き起こされる可能性があります。このホルモンとは、「刺激する」「興奮させる」という意味の古代ギリシア語を語源として20世紀初頭に命名されました。ホルモンバランスは、複数の臓器が統制を取ることで調整されています。協働して活動している内分泌器を一つの系とみなして内分泌軸といい、代表的な内分泌軸と機能は次のようなものです。①視床下部―下垂体―副腎系……感染炎症から免疫抑制、体浸透圧調整、体内時計、精神ストレスへの対応、②視床下部―下垂体―性腺系……生殖、③視床下部―下垂体―甲状腺系……基礎代謝量の調整、体温恒常性維持、③視床下部―下垂体―成長系……成長、④視床下部―下垂体―プロラクチン系……泌乳内分泌の異常は、ホルモンを分泌する臓器の異常とホルモン作用の異常に大別できます。そしてその原因は、腫瘍の存在、結核など感染症、自己免疫疾患、遺伝的な要因による先天性のもの、また、喫煙や睡眠不足、運動不足などの生活習慣などさまざまです。症状もさまざまです。たとえば副腎機能が低下しホルモンの分泌が減少すると、血圧低下や意識障害、疲れやすさや脱力などの症状が現れ、生命の危機が生じることがあります。反対に副腎皮質ホルモンが増加すると肥満や月経異常、皮膚の障害などを生じることがあります。◆内分泌異常症の検査ホルモン産生、ホルモン産生臓器の異常およびホルモン作用の評価を行う検査が実施されます。主には、血中、尿中のホルモン濃度測定や画像検査に加え、ホルモン産生の制御機構やホルモン作用を評価するための負荷試験が行われています。ホルモンは日内変動を示したり、年齢に応じて正常値が異なったりすることもあるため、こうした要素も加味しながら検査結果を評価することが求められます。また、血液検査による自己抗体の検出や感染症の評価など疾患の原因を特定するための検査も行われます。血液中およびの尿中のホルモン濃度は非常に微量ですが、ホルモンに対して特異的に結合する抗体を測定対象の試料に加え、ホルモンと抗体との複合体を形成させ、このホルモンと結合した抗体の量を正確に測定する検査法が開発され、今日では広く利用されています。◆内分泌異常症の治療ホルモンが低値の場合にはホルモンの補充療法が選択され、高値の場合にはホルモンの分泌を抑えるような治療方法が選択されます。また、原因に応じて、より特異的な治療方法を取ることもあり、たとえば、下垂体腺せん腫しゅといわれる腫瘍が原因の内分泌異常症の治療は、多くの場合手術が選択されます。ケネディを幼少時代から苦しめたとされるアジソン病は、副腎機能不全により副腎皮質ホルモンの分泌が減少する難病ですが、今日、軽症例ではグルココルチコイドによる補充療法を生涯にわたって続けることにより、症状もなく良好な一生を過ごすことができます。◆内分泌異常症の検査中枢神経上位の内分泌腺中位の内分泌腺下位の内分泌腺標的組織例 視床下部例 下垂体例 副腎皮質ホルモン作用ホルモン+ホルモン+ホルモンホルモン-ホルモン-ホルモン-ホルモン-ショートフィールドバックロングフィールドバック健常者のホルモン分泌のフィールドバック機構ホルモン+は分泌刺激   ホルモン-は分泌抑制を示す●ケネディの大統領就任時、日本の新聞記者が「日本で最も尊敬する政治家はだれですか」と質問し、ケネディは「上杉鷹よう山ざん」と答えました。前大統領アイゼンハワー時代から始まった不況を打開するために、150年前の江戸時代、すでに倒産状態にあった極貧の米沢藩を立て直した鷹山をケネディは学んでいたのです。2013年、駐日米国大使に就任した長女キャロラインも「父が江戸時代の米沢藩の名君とされる上杉鷹山を尊敬し、就任演説に代表される考え方に影響を与えた」と述べています。●鷹山は国家・人民のために存在・行動するのが君主であるという伝国の辞を残し、「成せばなる成さねばならぬ何事も成らぬは人の成さぬ成りけり」が信念でした。

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る