Pipette Vol.23 Spring 2019
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223歳で芸能界を引退され、結婚後2週間目から同居するおかあさま(以下では、「義は母は」「義おかあ母さま」などと表現)の看病が始まり、その後、認知症の介護と看取りまでを経験された荒木由美子さんから、認知症介護者へのアドバイスとエールをいただきました。ゲスト 荒木 由美子(タレント・歌手)聞き手 高村 好実(日本臨床衛生検査技師会理事・愛媛県臨床検査技師会会長・日本認知症予防学会理事)介護の体験を本に―荒木さんがご結婚された当時においては、認知症についての社会的理解はまったく「無の状態」だったでしょう。痴呆症から認知症に呼び名が変わったのは、介護保険が始まった頃でしょうし(※行政用語が「認知症」に改められたのは平成16年末)、私の最初の本『覚悟の介護』でも、痴呆症という表現になっていました。NHKでも認知症そのものや、介護に取り組む方のケアまでが取り上げられるようになりましたし、著名人の介護体験の本も注目されました。私の本の冒頭で、夫の湯原昌幸が自分の母親の首に手をかけてしまったエピソードから始まるわけですが、「在宅介護が続けられるかどうか、もっとも家族として苦しんだタイミングで起きてしまったことだから、そのシーンから始まるのはインパクトがある」と夫も許可してくれました。読者からは「うちでも同じようなことがある」という声をいただいて、やっぱりそうなんだと。介護は美しくは語れない、と感じます。本当のところをどこまで描くか、ケースによっても変わると思いますが、私は本を書いてよかったと思いました。―次々と認知症状や状況の変化が起きてそれに対応しなければならないのに、どうすべきか迷う人も多いのではないかと思います。もっと情報があり、もっとアドバイスしてくれる人がいれば、もっと次のステージに行けたはずなのに、そうならずに家族がバラバラになったりしてしまう。何かヒントがあれば楽になったのに、と思います。相談に乗れる医師とかケースワーカーがいるとか、私たちのような経験者がお話をお聞きするとか。5分や10分で答えが出ることはいっぱいあるんです。その5分、10分がないと何年も悩んでは泣いて、ということになります。私も20代で自律神経が駄目になりました。振り返ると、自分自身がかわいそうだったなぁと。―今、私が関わっている在宅医療系の財団では、1日だけでも介護を代わるというボランティアがあるのです。いいですねえ!―そういった概念すらない時代に介護をされたわけですから、大変だっただろうと。義母とは一瞬たりとも離れてはいけないし、夫も入る隙間がないという介護でした。2時間、子どもの送り迎えで夫に義母を預けても、夫はそばにいて何をすべきなのかわからないわけです。義母のほうは延々と「由美ちゃんがいない。何時に帰ってくるの」と言い続ける(笑)。ご家族に認知症の方が出てしまったら、介護する人の心を救うことを私は一番に勧めるんですよ。1週間に一度、1カ月に一度でもいいです。介護から離れることで「こんな贅沢な時間をいただいて本当にありがたい」と、また頑張れる気にもなれるんですね。介護のミ・カ・タ荒木由美子著。『覚悟の介護』(平成16年発刊)を加筆・修正。巻末には、由美子流「覚悟の介護」十箇条と病名用語解説を掲載。(文芸社文庫)

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