Pipette Vol.24 Summer 2019
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●グッジョブ・技師のお仕事ゲスト 夏井 いつき7そうに「おれほど俳句の種まいているやつはいない。おれが次期組長だ」とかね(笑)。─梅沢さんも組員だと認めているんですか。勝手に名乗れですから(笑)。─すでに組長代行と思っているのかもしれませんね(笑)。臨床検査技師の仕事の俳句─夏井さんのブログでは「仕事」をテーマに投句を募集されていて、脳科学者の茂木健一郎さんが対談で、「現代の万葉集だ」と称賛されています。『夏井いつきの超カンタン! 俳句塾』収載の佳作八六句の中には、「臨床検査技師のみうらあこ」さんの句というのもありました。回復の見ゆる検査値年の暮 同じ臨床検査技師として想像するに、容態の悪い患者さんの検査値がよくなって、お正月をご自宅で迎えられそうでよかったなあという思いを詠んだのではないかと。ただ、私とは異なる見方をする人もいて……。ちなみにどんな見方ですか。─そうした患者さんが退院されると、年末年始の緊急呼び出しも減るからよかった(笑)。 そっちかあ(笑)。俳句は17音がすべてなので、いろいろな方向から読み解いて鑑賞していくのは、この句を豊かにすることなので、臨床検査技師の立場からはこういう思いがあるということでも、何の問題もないのです。─検査室にいるだけでは、患者さんが見えません。それなのに、なぜこの句が読めたのかということもあります。なるほど、みなさんは患者が見えないんだ。─現在、病棟常駐検査技師の取り組みを、技師会として推奨しています。患者さんを多職種のスタッフが取り囲んで行うチーム医療の観点からの取り組みです。「チーム」っていう言葉が力強いですね。─多職種がお互いの役割を理解尊重して、協働するのがチーム医療の姿です。俳句の鑑賞は自由─金子兜太先生が監修された『365日で味わう美しい日本の季語』(誠文堂新光社)という本では、同じ「年の暮」という季語で夏井さんの句が採られていました。母が吾をまたいでゆきぬ年の暮ああ、うちの母が私をまたいだ句ね。懐かしい。最初の30代の句を集めた『伊月集 龍』の中の一句。兜太先生はこういう少しバカバカしい句もお好きなんです(笑)。─そのままの意味なんですか。ごろごろしていたら、「あっ、またがれた」(笑)。子どもと一緒だったか、お腹が大きくてごろごろしていたのかは忘れましたけど。年の瀬でいくら忙しいとはいえ、またぐかあ(笑)。ごろごろしていた私も悪い(笑)。─その対照が面白いということですね。読み手によれば、またがれるのは病床にある人という別の映像だってありえるんですね。─お父さんに関わる句もありますね。湯冷めしてぞっとするほど父に似る 同じ句集にある、私の若い頃、鏡を見てぞっとした体験を詠んだ句ですね。でも、この句は読む人によっては大笑いされます。いろんな思いで鑑賞しても構わない。俳句が楽しく奥行きのあるところですね。類想類句を恐れない─『夏井いつきのおウチde俳句』の中の台所の投句には、思わず笑ってしまいました。芋虫のシンクの端に来て戻るこの人はキャベツから芋虫が出てきて、どうしようどうしようと困惑していたら、芋虫の動きがとても面白かったという句。こんなふうに暮らしていたら、おウチの中でも好奇心を持って暮らしていけますよね。第1回『おウチde俳句』大賞に向けた投句を見ても、家の中にこれだけ俳句の種があるんだなあと、私のほうが勇気づけられました。─おウチの中の材料ですから、同じような発想の投句も多いと思うのですが。類想類句といって、いわゆる凡人のど真ん中(笑)。でも、類想類句がわからないと、類想から一歩出ることもわからない。最初は凡人のど真ん中の句を作ることを恐れないことです。俳句は17音ですから、一言一句変わらない俳句はいくらでも出てきます。「あっ、これは私だけが考えていることではないんだ」という情報をもらったと受け止める。ではどうするかと考えればいい。俳句をされる方に理数系の方が多いのも、俳句は言葉のパズルというとらえ方をスコーンと理解できるのかもしれない。いっぱいある俳句の公式

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