Pipette Vol.25 Autumn 2019
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2専門の生物学分野のみならず、環境問題、生き方論など幅広い分野で著書を持ち、テレビ番組『ホンマでっか!?TV』でもお馴染みの池田清彦先生に、がんばらず楽しく生きるためのヒントをうかがいました。ゲスト 池田 清彦(理論生物学者・評論家・早稲田大学名誉教授・山梨大学名誉教授)聞き手 滝野 寿(日本臨床衛生検査技師会専務理事)がんばらない生き方―池田先生は生物学がご専門ですが、最近は生き方のお話をされています。先生のおっしゃる「がんばらない生き方」は、頭の中では理解できても、現実には勇気がいり、なかなか実践がむずかしいと感じます。どうしたら実践できるのでしょう。若い人は、「こんなことをしていたら駄目になっちゃうのでは」「ちゃんと就職しないといけないのでは」など、先行きが不安なんですね。年金の問題もそうですが、とにかく10年後、20年後、30年後どうなるんだろうと、すごく考えてしまっているのが一番の問題だと思います。人から外れたことをしていると排除されて、生きていけないのではないかと、人となるべく同じことをして、目立つことはしたがらなくなっているんです。これは教育が悪いんですが、小学校、中学校では突出したことをすると怒られる。そのせいで日本の活力が落ちていると思いますよ。ぼくは、大学の入学式に行かなかったし、卒業式はなかったしね。早稲田の教員になってからも、入学式は行かなかったよ。だって、入学してくる生徒のことは知らないし……。一応、卒業式は、ほとんど皆勤したけど、自分のゼミの学生が何人もいて、生徒たちは着飾って記念撮影するし、父兄も来ますからね。儀式があれば、とにかく苦しくてもなんでも参加しなければいけないと、自分の意思に逆らってしまう。みんなでやらないといけないからやるとか、サボってはいけないとか、そういうことが多くなっているんですね。―学校の教育もそうですが、親の教育もそのような感じと思いますが。親は子どもに、並以上の学校に行ってもらって、大学はできれば一流、少なくとも準一流ぐらいには行って、ちゃんと就職してもらいたいと思っているからね。でも、そうやって就職した子どもがどうなるかというと、上場企業に行っても1年か2年で挫折して、辞めてしまう子も多いですね。そういう子どもは、自分はそうしたくないけれど、仕方なく線路の上をずーっと歩かされていたわけです。その線路が適合している子はそのまま行きますが、途中で、「何かおかしいのでは?」と思った子は、なかなか修正が利かなくなってしまうわけです。だから、最初から「いい加減でもいいんだ」と思っていれば、全然、問題ないということなんですよ。今、楽しいことをやる―池田先生の子どものころはどうでしたか。ぼくは小さいときからいい加減でしたね。昔は小学校で知能テストをやっていたんですが、ぼくはもともと真面目にやる気がなくて、めちゃくちゃやっていたから、知能指数は正常よりもちょっと低いぐらい。だから、通信簿には「知能のわりにはよく努力していると思うので、お父さん、お母さん、怒らないでください」といつも書いてあった。それでぼくは何をしても怒られなかったし、勉強しろとも言われなかった。がんばらない生き方池田清彦著。「がんばる」という価値観にメスを入れ、人生を楽しく生きる考え方を紹介。(中経の文庫)

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