Pipette Vol.6 Winter 2015
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7◆胃潰瘍の原因―ピロリ菌胃の中は強い酸性で、口から入った細菌は胃酸により殺菌されます。このように胃の中には「細菌が住めない」と思われていましたが、1982年にオーストラリアの消化器医により、初めて人の胃粘膜から、らせん状の細菌、ヘリコバククター・ピロリ菌が培養されました。ピロリ菌が胃の中で生きていけるのは、菌体がらせん状で、4~8本のべん毛を持っていて活発に動き、粘膜や粘液の下にもぐり込んで胃酸から逃れるからです。しかも、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を持っており、この酵素が尿素からアンモニアを生成させ、アンモニアによって胃酸を中和させるという、自らが住みやすい環境を作り出しているからです。◆ピロリ菌の感染経路ピロリ菌は、食べ物や飲み水から感染する経口感染がほとんどで、多くは幼少期に感染すると考えられています。日本人の約50%以上がピロリ菌に感染しているとの調査結果もあり、まだ上下水道の普及率が低く、衛生環境が整っていなかった時代に生まれた人の感染率が高く、50歳以上の約70~80%の人がピロリ菌を保菌しているといわれています。◆病気との関係日本人では、胃潰瘍の90%、十二指腸潰瘍の95%以上がピロリ菌陽性で、これらの病気に対して除菌が推奨され、2013年2月より、ピロリ菌感染胃炎全体に保険診療が適用となりました。ピロリ菌の除菌に成功すると、胃潰瘍、十二指腸潰瘍ともに再発率が減少しますが、この理由はピロリ菌がいなくなることで潰瘍の傷がしっかりと治ることが要因のひとつと考えられています。また、注目を集めているのはピロリ菌感染と胃がんの関わりで、1994年にWHO(世界保健機構)は、疫学的調査結果よりピロリ菌を発ガン物質として認定し、除菌により胃がんの予防効果があることが証明されたと発表しました。◆ピロリ菌の検査と診断ピロリ菌の診断法には、胃カメラ検査で胃の粘膜を採って調べるウレアーゼ法や、胃カメラ検査を行わずに血液や尿を用いてピロリ菌の存在の有無を調べたり、ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素により、胃の中の尿素を分解して生じた呼気中の炭酸ガスを調べたりする尿素呼気試験法などがあります。◆胃潰瘍の治療ピロリ菌は、単独の抗生剤での除菌が難しく、いくつかの薬剤を併用する方法が行われます。日本では、胃酸分泌を抑える薬と2種類の抗生剤の3剤併用療法が保険適用となっており、1週間の服用終了後から約1ヵ月後以降に除菌の効果を判定し、90%前後の高い除菌率が報告されています。胃弱ながら大食漢で、大の甘党だった漱石も治癒できた可能性があります。ただし、除菌治療を中途半端でやめたりすると、ピロリ菌が薬に対して耐性を持ち、次に除菌しようと思っても薬が効かなくなるおそれがあり、医師の指示通りに薬を飲むことが必要です。●『吾輩は猫である』の中で、苦く沙しゃ弥み先生の友人迷亭は、先生と気の合わない実業家金田某について「何だい紙さ幣つに目鼻をつけただけの人間じゃないか」と切って捨てます。そう書いた漱石も、昭和の時代に自らの目鼻が千円札紙幣に刷られることになるとは思いもよらなかったでしょう。天国でくしゃみをしていたのかも?◆胃い潰かい瘍ようの検査

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