Pipette Vol7
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●グッジョブ・技師のお仕事ゲスト 田崎真也3自分の嗅覚はあまりよくない、味覚はそんなにすぐれていないと思っていらっしゃると思います。日常生活の中で嗅覚を使っているという意識を持つ瞬間はほとんどないと思いますし、味覚を感じているという時間もほとんどないですね。だから、そう思ってしまうだけなのです。―海外のかたはどうですか。日本人はデオドラントに意識が行きすぎていて、すべてをマイナスしていきます。あるものをゼロに近づけていくのです。それが清潔でクリーンだと、習慣的に感じているのです。外国人の場合はプラス思考と言いますか、自分の体臭がこうだから、それをいかに消すかではなくて、どんな香水を使えばよりいい香りになるかと考えるのです。そこに大きな違いがありますね。日本人は、羊肉にしても、レバーにしても、にんにくなどの野菜にしても「臭いから匂いを消す」のです。だから、子どもたちの味覚、嗅覚が乏しくなってしまったのは大人のせいではないでしょうか。子どもはピーマンが嫌いだからというときに、ピーマンをより美味しく食べる方法を考えるのではなくて、品種改良して香りのないピーマンを作るわけです。同じように、ニンジンの香りがしないものを作って、それを子どもに食べさせようと考えたのです。私は、そこからおかしいと思っているのです。「こうやると豚の臭みが取れます」とか、鯖が美味しい時期に、わざわざ、「鯖の臭みを取る料理方法です」と、テレビで当たり前のように紹介されます。ヨーロッパの人は、「そんなことあり得ない」と言っています。いかに鯖の風味を活かしていくか、そのためにスパイスを使ったりするわけですから。―そのあたりの考え方が逆ですね。それは学校の成績をつけるときも同じですね。日本はすべて減点法で評価します。「百点満点って誰が決めたの?」って考えてみると、それは任意に決めただけで、100点以上の答がないわけです。外国では加点法で、0点からスタートして、模範解答はありますが、それ以上の解答ができたら100点満点のものが120点になるのです。そうでなければ伸びないですね。そのような違いが、嗅覚と味覚の表現にも出てきているかもしれません―そのニュースによれば、子どもたちは、甘いものはわかるようですが、酸味が特に弱いと……。日本の料理というのは酸をあまり使わず、会席料理を見ても、酸を使っているというのはあまりありません。間接的には、醤油にも本来酸味はありますが、直接的に強く感じないまま、甘味と塩辛味と旨味で構成される味が続いて、最後に酢の物を食べる感じになっているのが会席料理です。ヨーロッパの料理は、日本料理のように砂糖は使わないで、ワインを煮詰めたり、ビネガーを使ったりして、デザートで思い切り甘いものを食べるのですが、日本では、日本流のデミグラスソースとか日本流のソースというのがほとんど甘辛旨味なので、酸を摂取するタイミングがないのでこんな「食レポ」は要注意美味しさが伝わりますか?×こんがりきつね色×肉汁がじゅわっと広がる×バターを贅沢に使った×プリプリした×ほっこりした×まったりした×こくがあってあっさりしている田崎真也『言葉にして伝える技術―ソムリエの表現力』(祥文社新書)から

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