パンデミック・インフルエンザ(H1N1)2009
≪本格的流行に備えて・・・≫
 新型インフルエンザの患者が神戸・大阪で発生し、大きな混乱を招いたが、その後沈静化し不気味な漣状態が続いている。9月20日現在、世界191の国と地域からWHOへ30万例を超えるパンデミックインフルエンザ感染例と3917例の死亡者が報告されている<国立感染症感染症情報センター>。

 一方、国内の状況は、9月7日から9月13日の1週間では15,382例の感染が報告されている。1週間の1医療機関当たりへの受診患者数<定点あたりの報告数>は3.21となっており増加傾向にある<感染症発生動向調査>。多くの国は、軽症例の報告を中止しており、報告数は明らかに実際の症例数よりも低くなっている。そのため、実際の流行を反映しない報告数という状況の中で、WHOは協力体制を強化するとともに複数の情報源により、パンデミックの進行を積極的に追跡している。通常、パンデミック対策を論じる場合は、毎年の所謂季節性インフルエンザの罹患率10%程度を超えるものを想定する。日本で言えば人口の30%、人数にして3,000万人を上回る規模の場合である。WHOでは、すでに6月11日にフェーズ6を宣言した。このパンデミックは1918年の5,000万人の死者を出したスペイン風邪のようなものではないが、季節風インフルエンザのような穏やかなものでもないという意味からmoderateという表現を用いている。即ち、季節風インフルエンザよりも罹患率は高く、広範囲を想定するものとして重要視するべきであろう。

 当初、感染者の多くは若年層であり、高齢者は免疫を持つため重症例は少ないとされていたが、ハイリスクを持つ高齢者は養護施設などへの入居者も多く隔離状態であったことの可能性もある。日本では、学校閉鎖などによる、感染の機会を可能な限り抑えるという基本的な対策を進めたため神戸・大阪でも大火を避けることが出来たわけである。それに比べアメリカなどでは、学校閉鎖を早く取りやめたことで感染が拡大しているという。まだまだ対策の万全とはいえない日本は、初期段階で押さえ込み時間稼ぎの状況が続いている。感染が一定の段階に至った場合は抑えることは不可能となり、神戸・大阪の感染は小さな漣状態と見るべきで、必ず大きな波が来ると予想される。

≪予防対策は公衆衛生の観点が重要≫
 日本においては、欧米と異なり公衆衛生的な予防対策に理解を示す社会構造がある。その例が先に示した学級閉鎖の対策と考える。欧米では学級閉鎖はめったに実行されない状況が感染から死亡例の増加している要因といわれる。我々コメディカルもその観点からの協力体制を積極的に行うべきである。

 今後、公衆衛生的対策の限界を超えた時点では医療の現場が力を試されることになる。現在、各医療機関での外来患者が急増しており、地域格差による医療崩壊状況も深刻な様相を呈している。報道によると医師不足のためのICU削減や人工呼吸器の不足により、重症患者の増加にどのように対応するかが問題と言われる。
臨床検査の現場では、PCR検査試薬の確保も重要ではあるが、マンパワーの不足にどう対処するかが深刻な問題となるであろう。地域の連携はもとより、技師会としてのバックアップ体制も考えるべきである。先の会報でも紹介したが、医療行為による弊害、賠償保険では担保出来ない問題も含めての話である。 

 当会では、平成21年9月6日(日)に新型インフルエンザ対策緊急研修会を開催し、全国から500名が受講した。この中で、講師の岡部信彦氏<国立感染症研究所>は、「SARSを思い出して標準予防対策を講じる必要がある。新型とはいえ特別危険なものではなく普通出来る感染症対策が重要である」、更に「広がるパンデミックインフルエンザに対する重要性を見逃す恐れもあることから、このインフルエンザを通して感染症全般の対策が肝心である」と述べた。また、高山義浩氏<厚生労働省健康局>は、「行政の現場感覚と医療の感覚との整合性を図ることが、今後の目標である」と述べ、今後の対策の重点を示唆した。

≪人とインフルエンザの分類≫
 「如何に努力をしても危機管理による結果は完璧ではない。仮に完璧と言われる結果を得たとしたら・・・それは、危機ではなかったことである」と、外岡立人<ウエブサイト「鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集」主宰>は述べている。このVirusそのものを知らないで、右往左往することが危機管理の面からも危険なことである。外岡氏による、人とインンフルエンザの分類を紹介する。

◇ A型インフルエンザ
 カモ等の多くの水鳥が自然宿主として保有し、株は理論上百数十種にもなる。現在流行している株と発生時期は以下のとおり。
  • 香港型<H3N2−1968年>
  • ソ連型<H1N1−1977年、スペイン型の末裔で研究室から漏れたと推定。>
  • インフルエンザA<H1N1−2009年>
     過去に流行したが、現在見られない株
  • アジア型<H2N2−1957年>
  • スペイン型<H1N1−1918年>
  • インフルエンザ<H5N1>
     世界的に家禽や野鳥の間で拡大している“鳥インフルエンザ”で、家禽や患者との濃厚な接触により人にも感染する。人の間で感 染を起こすようになった場合は“新型インフルエンザ”に入れられる。現在のところ人の間での感染能力はない。
◇ B型インフルエンザ
人にしか感染しない。通常は春先に流行するが、A型ほどの症状にはならない。山形系統株とビクトリア系統株があり、その下に亜型が存在する。山形系統株の流行が主であったが、昨シーズンの米国ではビクトリア系統株が流行した。

◇ C型インフルエンザ
 臨床的に問題となる流行はない。

≪今後の問題点≫
 公衆衛生の観点を重視した米国CDCのような組織構築が必要であり、対策責任者と責任官庁を明確にする必要がある。これから冬季にかけては、現在よりも病原性の高いインフルエンザに変化して再来する可能性も指摘されており、行動計画の強化と実効性のある変更を急ぐ必要がある。また、ワクチンと抗インフルエンザ薬については、世界的には十分とはいえず、特に途上国での被害は深刻なものとなる可能性があり、途上国への支援体制が急がれる。感染を広げないことが基本であり、その場を極力減らすことが最重点である。それは政府に限らず、誰でも出来る対策である。

参考:
1) 医学界新聞、第2842号(2009.08.10)
2) 新型インフルエンザクライシス、岩波ブックレットNo.766

≪新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチン接種の基本方針≫
 厚生労働省新型インフルエンザ対策本部は、新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチン接種の基本方針を公表した。

 以下の、厚生労働省ホームページを参照してください。
・新型インフルエンザ対策関連情報(新型インフルエンザワクチンQ&A)
   http://wwwhaisin.mhlw.go.jp/mhlw/C/?c=143745

≪お願い≫
各都道府県技師会は自治体と連携をとり活動していることと推察いたします。それら情報を共有し、今後の活動に役立てることが国民の医療を守る我々には重要なことと考えます。そのため、活動状況などをはじめとする新型インフルエンザに関する情報を下記アドレスまでお知らせ下さい。また、連絡いただく際には、所属、氏名を必ずご記入ください。 
 jamt @ jamt.or.jp

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「発熱外来設置における現場から」(福岡)・
「新型インフルエンザ渦=その後=」(兵庫)
新型インフルエンザ発生状況
夏休み期間中における海外での感染症予防について


≪リンク≫
・厚生労働省 新型インフルエンザ対策関連情報
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html

・国立感染症研究所 感染症情報センター
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

・日本医師会 新型インフルエンザ関連情報
http://www.med.or.jp/kansen/swine/

・首相官邸 新型インフルエンザへの対応
http://www.kantei.go.jp/jp/kikikanri/flu/swineflu/

・厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/index.html

・WHO(World Health Organization:世界保健機構)
http://www.who.int/en/

・CDC(Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病予防管理センター )
http://www.cdc.gov/
http://www.cdc.gov/h1n1flu/


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