事例分析の視点(その2)

情報収集・整理が終わったら、対策を立案するための分析をしよう!!

なぜなぜ分析(why why analysis) SHEL分析 4M4E分析 RCA:Root Cause Analysis(VA版) Medical SAFER
3.事例分析の種類─根本的な原因を分析するための手法

その1で紹介したように事例分析にはさまざまな手法があります。
米国のThe Joint Commission*1では警鐘事例:A sentinel event(死亡もしくは身体的・精神的に重大な障害を伴う予期しない出来事)の分析には、背後に潜む根本的な要因を見極める必要があるため、根本的な原因を分析する手法を薦めています 1) 2)

ここでは根本的な原因を分析するためのいくつかの手法を紹介します。これらの分析手法を総称してRoot Cause Analysis(RCA)と呼ぶことがあります。


* 1:The Joint Commissionとは
1951年に創立された米国の非営利団体。ヘルスケアを充実させるために継続的に医療機関を評価・認定するとともに安全で質が高い効果的な医療のプログラムを調査・研究・開発し医療機関や団体等に提供しています。

1)なぜなぜ分析(why why analysis)

なぜなぜ分析は、抽出された要因事象に対し、「なぜ」を数回繰り返し、根本的な原因を詳しく追跡する方法です。
単純な方法なので、いつでも誰でも行う事ができます。トヨタ自動車の改善活動3)で「なぜなぜ5回」*2が紹介されているので、なぜなぜ分析をご存知の方もいるのではないでしょうか。

たとえば、採血時のスピッツ間違えの事例で考えてみましょう。〔図1参照〕

〔図1:例:採血のスピッツ間違えの「なぜなぜ分析」〕

このように一つの出来事に対して「なぜ」「なぜ」を繰り返すことで原因が見えてきます。
また、後述するRCA(VA版)のプロセスの中にはこの「なぜなぜ分析」が含まれます。

* 2:「なぜなぜ5回」とは

トヨタ自動車が業務改善のために問題を見えるようにするために取り入れた方法です。一つの事象に対して「なぜ?」「なぜ?」を5回繰り返しその原因を追究し対応策を考えるための方法を言います。

2)SHEL(L)分析

SHEL(L)分析はSHEL(L)モデルを使った分析手法です。
SHEL(L)モデルははじめに航空業界で提唱されました。

SHEL(L)モデルとは、図2のように

  1. フトウエア:Software、
  2. ハードウエア:Hardware、
  3. 環境:Environment、
  4. 当事者以外の人々:Live ware

の4つの要因と、
中心の当事者のL:Live ware
との相互関係に注目するモデルです。
外縁が不定形な形になっているのは、状況によって人間の能力や限界がさまざまに変化することを表現しています。この4つの要因の頭文字をとってSHEL(L)モデルと呼んでいます。

〔図2:SHEL(L)モデル〕

SHEL(L)モデルの4つの要因に医療事故に関連する項目を当てはめてみると、

  1. S:software:手順書、マニュアル、規則など、
  2. H:hardware:医療機器・機材、医療器具や施設・設備の構造など、
  3. E:environment:温度、湿度、照明などの物理的環境だけでなく仕事や行動に影響を与える全ての環境要素、
  4. L:liveware:当事者以外の人々、事故にかかわった他のスタッフ、患者自身や患者の家族などになります。〔図3参照〕

SHEL(L)分析では、これらの項目に沿ってなぜ事故が起きたのかを検討し、対策を立てる時もこの4つの要素の視点で幅広く考えていきます。

〔図3:4つの要因に当てはまる医療事故に関連する項目 例〕

3)4M4E分析

事例の具体的要因を4M

  1. (当事者):Man、
  2. 機械・モノ:Machine、
  3. 環境:Media、
  4. 管理:Managementの視点から検討し〔図4参照〕、

それぞれの要因の対策を4E

  1. 教育・訓練:Education、
  2. 技術・工学:Engineering、
  3. 強化・徹底:Enforcement、
  4. 模範・事例:Example

の視点で考える〔図5参照〕分析手法です。
それぞれの頭文字をとって4M4Eと言います。アメリカの国家航空宇宙局で事故の分析に用いられています。

【図4:4M(具体的要因)の例】

【図5:4E(対策)の例】

このときに、4Mと4Eをマトリックスにした分析シートを作成し活用するといいでしょう。〔図6参照〕

前掲のスピッツ間違えを例に分析シートへの記載方法を示します。

例えば、4Mの
Man:人間(当事者)の欄  ⇒  「慌てていた」、
Machine:機械・モノの欄  ⇒  「スピッツの栓の色が類似」「スピッツの大きさが同じ」、
Media:環境の欄  ⇒  「保管場所が暗かった」、
Management管理の欄  ⇒  隣同士に並べて保管」
を書き込みます。その後、それぞれの具体的要因に対する対策を4Eの項目に沿って考えて記載します。

例えばMachine:機械・モノの欄に記載した「スピッツの栓の色が類似」「スピッツの大きさが同じ」の対策を4つのEに沿って考え、該当する欄に記載します。

Engineering:機械・モノの欄  ⇒  「栓の色が類似のスピッツは離して保管する」
Enforcement:強化・徹底の欄  ⇒  「スピッツの保管場所に色紙を貼り分かりやすくする」「注意喚起のポスターを作成し貼る」
などを記載します。

【図6:4M4E法の分析シート〔例〕】

4)RCA:Root Cause Analysis(VA版)

米国退役軍人病院(U.S.Veterans Hospital:VA)の患者安全センター(VA National Center for Patient Safety:NCPS)で開発されたもので、米国内に100以上あるVAの関連病院へ導入されています。

必要な情報を収集した後で情報の整理として「出来事流れ図」を作成し、問題事象の特定のために「なぜなぜ分析」を行い背景要因の追求を行います。
この時に“RCA質問カード”を使う事があります。その後「因果図」作成し、「因果連鎖の検証」を行い「対策立案」します。〔図7参照〕

【図7:RCA(VA版)】

“Root Cause Analysis VA版”を行って見出せるゴールは、

  1. 何が起こったか:What happened、
  2. なぜそれが起こったか:Why did it happen、
  3. どうしたら再発防止できるか: What to do to prevent it from happening again と言われています 4)

5)Medical SAFER

河野龍太郎氏(現 自治医科大学医学部教授)が開発したヒューマンエラーの分析手法です 5) 6)。原子力発電所勤務の運転員が過去のヒヤリ・ハット事例を分析することを目的に開発された分析手法を医療用に改善したものです。

「時系列事象関連図」を作成し情報を収集・整理を行います。
その後「問題点抽出」をし「背後要因関連図」を作成します。
この要因分析を行うときにP-mSHELL*2モデルを使用します。
その後「対策の列挙・決定」を実施します〔図8参照〕。

【図8: Medical SAFER】

*2:P-mSHELL
SHEL(L)モデルに、管理management“m”、患者Patientの“P”を加えたもので、構成要素はP:Patient(患者)m:management(管理)S:Software(ソフトウェア)H:Hardware(ハードウェア)E:Environment(環境〕L:Liveware〔同僚〕、L:Liveware(本人)となる。

リスク回避のコツ

事例分析は、その事故がなぜ起こったのかを多角的に分析し要因を抽出し、それに基づいて対策を導き出し、事故防止対策を実施するために行います。
分析方法には様々な種類がありますが、どの手法を活用するにしても、まず「情報収集」を行う事が重要です。そのために前回紹介した「イベントレビュー・アプローチ」を活用すると「情報収集」→「情報の整理」を円滑に実施できます。情報収集と情報の整理をしたら、今回概要を紹介した分析手法や、個々の施設で使用している方法を活用し事例分析を実施してみてください。

〔引用・参考文献〕

  1. The joint Commission ホームページ:The joint Commission Facts about the Sentinel Event Policy
  2. 相馬孝博監訳:患者安全のシステムを創る 米国JCAHO推奨のノウハウ,医学書院, 2006.
  3. 大野耐一:トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして,ダイヤモンド社,1978.
  4. NCPSホームページ:Root Cause Analysis (RCA)
  5. 河野龍太郎:医療におけるヒューマンエラー,医学書院,2004.
  6. 河野龍太郎:医療安全へのヒューマンファクターズアプローチ,日本規格協会,2010.