これだけは知っておきたい!!
医療安全に関する職員への教育・研修の企画

医療安全管理者になった時に備えたい!!

はじめに

厚生労働省「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」には、医療安全管理者の業務の一つとして「医療安全に関する職員への教育・研修の実施」があり、その内容は、「職種横断的な医療安全活動の推進や、部門を超えた連携に考慮し、職員教育・研修の企画、実施、実施後の評価と改善」となっています。1)

医療安全管理者の皆様からしばしば「全職員向けの研修の企画・実施に苦労している」という声を聞きます。そこで、今回は医療安全に関する職員への教育・研修の企画について述べていきます。

1.研修の「見える化」

厚生労働省医政局長通知「良質な医療を提供する体勢の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の一部の施行について」で、病院等(病院、有床診療所、無床診療所、助産所)に義務付けられた医療安全に関する院内研修 2) を一覧にすると表1のようになります。〔表1参照〕ただし、無床診療所、および妊婦等を入所させる施設を持たない助産所については当該病院等以外での研修を受講することでも代用できることとし、年2回程度の受講のほか、必要に応じて必要に応じて受講することとしています。

皆様の施設でも多くの研修が実施されていることと思います。医療安全に関する研修を企画・実施する時は、

  • 年間を通して実施する院内研修を「見える化(可視化)」し、
  • 部署間での重複をなるべく避けて系統立てた研修を、
  • 効果的に計画・実施する
    ことが必要になります。いつ誰が誰にどのような研修を実施しているか相互に把握するために、
  • 施設の研修の年間計画を縦軸に主催部署、
  • 横軸に開催月を、
  • 内容に主題と対象者と講師を
    記載し、一覧表にすることをお勧めします 3)。〔表2 参照〕
2.研修の企画・実施

2007年医療法施行規則(第11条の11)により、病院、有床の診療所では全職員に対して年2回の医療安全研修会を実施することが求められています 4)
皆様の施設でも全職員を対象とした集合型研修を企画・開催することが多いと思います。

全職員に集合型研修を実施する意義は大きく3つあります。

  • 1つ目は場を共有して職員が共通の意識や一体感が持てる
  • 2つ目は全員の知識、情報の共有ができる
  • 3つ目は組織(トップ管理者、医療安全担当)の考え方を伝える場になる
    などです。

特に、他職種による集合研修は、職種、部門間のものの見方や考え方のギャップを埋め、 医療安全のための相互支援の促進のきっかけになります。私達はチームで医療を提供しているためこの医療安全のための相互支援の促進はとても大切です。

効果的な研修を企画するときは6W1Hで考えていくことが必要です。具体的のそれぞれの項目について以下に解説します。

WHY:どのような目的で実施するのか

病院の義務、安全文化構築、意識向上のため、知識や技術を向上させる、具体的に事故を減少させるなどいろいろな目的で研修が企画・実施されます。一番大切なことは、受講者に参加している研修の目的をしっかり伝えることです。

What&Whom 何を、誰に学んでもらうか

研修内容を考えていく時に「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」2)医療安全に関する職員への教育・研修の実施(4)研修について考慮する事項に示されている研修内容の例 5)が参考になるので下記枠内に抜粋します。

【研修内容の例】

a. 医療の専門的知識や技術に関する研修
b. 心理学・人間工学・労働衛生など、他分野から学ぶ安全関連知識や技術に関する研修
c. 法や倫理の分野から学ぶ医療従事者の責務と倫理に関する研修
d. 患者、家族や事故の被害者から学ぶ医療安全に関する研修
e. 医療の質の向上と安全の確保に必要な知識と技術に関する研修
f. 患者、家族、医療関係者間での信頼関係を構築するためのコミュニケーション能力の向上のための研修

研修内容に応じて対象者を全職員、職種ごと、部門ごと、経験年数ごと、役職ごとにするのかなどを決めます

When&Where&Who:いつ、どこで、誰が

開催時期や頻度

全職員対象の場合は「業務があって出席できない」を減らすために、開催曜日や時間帯、研修の所要時間を考慮します。同じ研修を複数回開催する、研修を視聴覚教材(ビデオ・DVD・CDなど)に残していつでも見られるような体制をつくり補習を実施するなどの工夫が必要になります。また早い時期に受講者に研修の案内を出すことで、勤務や個人の予定の調整がしやすくなります。

例えば、全職員が一次救命処置(AEDの操作含む)のスキルを獲得するなど職員の知識やスキルを向上させたい場合は、年間計画で複数回、曜日や時間帯を変更して研修を開催することで全員が参加できるような工夫が必要です。また、様々な医療事故報道や厚生労働省等からの通知などの新しい情報が発生した場合は、臨時で研修会を企画・実施することが大切です。

開催場所や設備

広さ、収容人数、パソコンやプロジェクター、スクリーンの大きさ、空調や照明・音響設備などを考慮します。研修の形態によっては机が必要な場合もあります。これらの受講環境は受講者の理解度に影響を与えます。

講師の選定

院内講師、外部講師それぞれの利点を理解したうえで選定します。外部講師はそれぞれの専門分野に関する知見や、世の中の潮流などを踏まえ医療安全の取り組みの標準などに関する研修が実施できます。院内の講師は自施設の状況を踏まえた研修が実施できます。

院内の他部署、他職種の人に講師を依頼すると他部署の業務が理解でき他職種との共同の取り組みのきっかけになります。たとえば院内のNST:Nutrition Support Team(栄養サポートチーム)、RST:Respiration Support Team(呼吸サポートチーム)、ICT:Infection Control Team(感染制御チーム)や、抗がん剤専門薬剤師や各分野の専門・認定看護師などに講師を依頼することでそれぞれの仕事が理解でき共同の取り組みが進みます。

How:どのように

研修をどのようにすすめていくかについては、研修の形式、教材の工夫、参加意欲を高める工夫、評価して改善する工夫、スムーズな運営の工夫が大切になります。

研修の形式

大きく講義形式と受講者参加形式の2つに分類されます。
講義形式は大人数が一度に参加できますが聴講するだけでは集中できる時間は短いといわれています。事前に用意したワークシートに個人で記入してもらう、座席が近い人と意見交換や情報交換を実施してもらうなどの個人ワークを取り入れる、講師の質問に挙手で意思表示をしてもらう、質問に回答してもらうなどの工夫を行うことで受講者に主体性を持って研修に参加してもらうことができます。

また事前に研修の内容に関するアンケートや簡単なチェックテストを行いその結果を研修に反映させながら実施するなどの工夫を行うことで、受講者が興味を持って研修に参加することができます。
たとえば、心電図モニターのアラームに気がつくのが遅れ患者に重篤な障害が残ったというような事故報道を基に医療機器のアラームに関する研修を実施する場合、研修前に職員に心電図モニターのアラームに関する意識についてアンケートをとり、その結果を研修会で伝え解説することで興味関心を持って研修会に参加してもらうことができます。

また、個人情報の取り扱いの研修を実施する前に「個人情報に関するチェックテスト」を配布し、回答してきてもらいその回答を研修会で解説することで参加前に職員の関心を高める事ができます 6)

グループワークやロールプレイングなどを取り入れた受講者参加型は受講者が主体的に興味を持って参加する事ができます。この場合は一度に多くの人数で実施するのは難しいのですが、長時間集中することができるといわれています
たとえば、事例分析は事例をグループごとに検討しその後発表し意見交換を行います。また、患者・家族や職員間のコミュニケーションに関する研修では、ロールプレイングなどを取り入れて実施します。

教材の工夫

教材もパワーポイントだけではなく、医療事故の関する新聞記事や医療安全やコミュニケーションに関する視聴覚教材(ビデオ、DVD、CDなど)やe-learning*1などを活用します。このような教材を見てもらった後に短時間でも意見交換したり、柔軟な発想を求めるブレーンストーミング*2などを行うことで受講者が主体的に研修に臨むことができます。

他にも研修の素材として、様々な団体のURLを活用できます。厚生労働省や(財)日本医療機能評価機構、(独)医薬品医療機器総合機構、(社)日本臨床衛生検査技師会などのホームページや、時には海外に目を向けて、AHRQ:Agency for Healthcare Research and Quality、IHI .org:The Institute for Healthcare Improvement、JCAHO:The Joint CommissionのPatient Safetyのホームページなども参考になります。

*1:視聴覚教材やe-learning弊社作成の様々な教材がありますので、ご活用ください。

*2:ブレーンストーミング(brainstorming)とは米国で開発された集団的思考の技術です。グループであるテーマに関して自由に意見を出し合い、他を批判せずにアイデアを出し合い、新しい発想を生み出す方法の一つです。ブレーンストーミングの実施過程では「批判しない」「自由奔放」「質より量」「連想と結合」の4つの原則があります。

参加意欲を高める工夫

自ら望んで研修を受講する人と、何らかの義務から研修を受講する人では研修意欲が異なり、それにより学習効果にも差があると考えられます。なるべく多くの人が自らの意思で研修に参加するような働きかけが大切です。内容に関心を持ってもらうためには、前掲したような事前のアンケートやチェックテストなどの活用のほかに、例えば研修の形式を各部署の代表者が医療安全に関する取り組みを発表するようなシンポジウム形式で実施するなどがあります。
参加への外発的動機付けとしては、例えば研修出席者にシールを配布し自分の名札に貼ってもらう、個人の研修ファイルを作成し自己の成果を確認できるような仕組みを作るなどがあります。

評価・改善

研修実施後には、研修受講者からの評価として研修終了後のアンケートを実施します。このアンケートを通して、研修プログラムの改善につなげます。またアンケートに回答することは受講者自身の振り返りにもなります。
アンケートの内容は受講者自身の振り返りのための「どのような内容が印象に残ったか」「研修は今後の業務に生かせるか」など、さらに研修の企画や運営のために研修の時間、構成、講師、会場等に関する項目や、「今後、どのようなテーマを希望するか」など次の研修の参考意見などから構成するとよいでしょう。

スムーズな運営の工夫

研修をスムーズに運営するためには協力してくれる運営スタッフの確保が大切です。年間の全ての研修プログラムの作成等に関わり研修を手伝ってくれる主要メンバーを決めます。施設によっては「研修委員会」という名称で呼んでいる場合もあります。
それと同時に1回の研修ごとに事前の準備や当日の運営にかかわるスタッフも依頼します。コンピューターに強いスタッフや視聴覚教材や音響などの設備に詳しいスタッフ、広報担当、受付担当のスタッフ、配布資料を準備するスタッフ、写真やビデオ撮影のスタッフなどが必要になります。
その他に、プログラムやタイムスケジュールを研修の最初に明示したり、椅子や机の後片付けは受講者全員で実施したり、パソコンやプロジェクターの投影やマイクのテストを事前に行うなども研修をスムーズに運営するために重要なことです。

以上研修の企画・実施について述べてきました。皆さんが実際に研修を企画・実施する時の参考にしてください。

参考

  1. 厚生労働省医療安全対策検討会議医療安全管理者の質の向上に関する検討作業部会「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針―医療安全管理者の質の向上のために−」(平成19年3月)
  2. 厚生労働省医政局長通知「良質な医療を提供する体勢の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の一部の施行について」(医政発第0330010号,平成19年3月30日)
  3. 東京海上日動メディカルサービス(株)メディカルリスクマネジメント室著:リスクマネジャーのための医療安全実践ガイド,看護協会出版会,90-92,2009.
  4. 前掲2)
  5. 前掲1)
  6. 前掲3)