採血事例−その1

臨床検査技師Aは、左肘の内側正中静脈から採血しようとしたが、血管が見つからず、手首部分で患者Xの採血を実施しました。針の刺入時に患者Xは痛みを訴えましたが、臨床検査技師Aは手首からの採血は一時的に痛みを伴うので特別なものだと思わずに採血を続行しました。

その後、採血部位が紫色に変色し、手首から指先までしびれたため患者Xは整形外科を受診し、『採血用の注射針による左橈骨神経知覚枝損傷』診断されました。

裁判の結果は「手関節橈側での採血は予測し得ない橈骨神経浅枝の損傷を引き起こすことがありえるため、臨床検査技師Aはできるだけ肘部で太い静脈を見つけ、それがない場合は前腕の加温、把握運動、前腕の下垂により静脈を怒張させ肘部での採血に努める義務があった。患者Xが痛みを訴えたときに安易に考え採血を直ちに中止しなかった過失がある」と病院と臨床検査技師が損害賠償を求められました。

施設によっては、臨床検査技師も採血に携わることがあるので、患者から採血時や採血後にしびれや痛みを訴えられる場面に遭遇することがあるのではないでしょうか。そこで採血実施時の注意点について述べます。

こうしたら事故は起こらなかったかもしれない!!
リスク回避のチェックポイント

1血管が見つけにくい場合

全ての患者の血管がわかりやすく、針を穿刺してもすぐに血管に穿刺できるとは限りません。そのような時、何回も穿刺したり深く穿刺してしまうことがあります。このことが原因で神経損傷や内出血・血腫が生じる可能性が高くなります。

そこで、複数回の穿刺をなるべく避ける工夫が大切になります。例えば、血管を怒張させる工夫(暖める、腕を一度下げて抹消の血流を増やす、把握運動をしてもらうなど)をしたり、穿刺を複数回実施しても採血できない場合は、他の職員に代わって採血をしてもらうことも大切です。複数回の穿刺で血管が収縮してしまうこともあるので、少し時間をおいてから採血を実施することも一案です。

また穿刺時の針の角度が大きいと針が深部に達し、血管や神経を損傷する可能性が高くなるので、皮膚に対して針は15〜30度の角度で穿刺することが望ましいと言われています。

2血管を選ぶ

手関節部分の橈骨皮静脈は、橈骨神経浅枝が橈骨皮静脈に近接し、場所によっては橈骨皮静脈をまたぐ形で走行しているため、安全な角度と深度を保って穿刺しても神経損傷をきたす可能性があります。そのため、手関節部分の橈骨皮静脈からの採血はできる限り避けます。

また肘正中皮静脈の深部には正中神経が、尺側皮静脈の深部には正中神経や上腕動脈が走行しているので、採血時の針の穿刺角度が大きいと神経損傷や動脈損傷をきたす可能性が高くなるので注意します。

リスク回避のコツ

現在はスタンダードプリコーション(標準予防策:standard precaution)で、感染予防のため採血時は患者ごとにディスポーザブルの手袋を使用します。そのため、素手での採血よりも血管を触知しにくくなるため、血管を十分に怒張させ適切な血管を選択し穿刺することがポイントになります。