採血事例−その2

看護師の事例ですが、マニュアルどおり採血を実施したことが、過失がないとする判断に影響した事例があります。

献血に応じたYは、看護師Bが左前腕部に注射針を穿刺し、試験採血を行った時に電撃痛を感じました。そこで病院の紹介で他院を受診し、通院加療に2週間を要する左腕皮神経損傷の診断を受けました。その後Yは損害賠償を求め提訴しました。

裁判の結果は、「看護師Yは献血業務で9年の経験を持ち、採血についても病院のマニュアルに従って実施していたこと。前腕皮神経の繊維網は静脈近傍を通過していて、静脈を穿刺する時に静脈付近の皮神経の部位は確かめようがないので、今回の採血で仮に皮神経に注射針が触れたとしてもそれは不可抗力であること。皮神経を損傷しない部位を注射針の穿刺部位として選択を要求することは現在の医療水準では不可能であるので、看護師Yの今回の採血行為には過失がない」と判断されました。

参考 大阪地裁 平6(ワ)第7930 平成8年6月28日判決 判例時報,No.1595,p106-109,1997.

こうしたら事故は起こらなかったかもしれない!!
リスク回避のチェックポイント

1採血によるしびれ痛みへの対応

患者が「ひびく」「ビリッとした」「しびれる」「痛い」などを訴えたら、慌てずに必ず駆血帯を外し直ちに針を抜きます。

神経損傷が疑われる場合には、速やかに整形外科などの専門医に診察を依頼してください。患者の状況と対応を外来の場合は担当医、入院の場合は主治医に報告します。状況と対応は必ず診療記録や報告書に記載してください。

2マニュアルに沿って

皆様の施設では、採血の手順書や採血のマニュアルが整備されていると思います。採血実施時にマニュアルに沿って実施することが大切です。マニュアルに沿って実施することが自分自身を守ることにもなります。

施設で採血のマニュアルを作成するときは、現在の採血の標準に準じた上で、かつ実行可能な内容で作成してください。そして、マニュアルの内容が現在の標準にあっているか、実行可能な内容なのかを実際に採血に携わる臨床検査技師や看護師から話を聞いて定期的に見直しを行ってください。

3フローチャート

いくら気をつけて実施しても、採血中や採血後に患者がしびれや痛みを訴える場合があります。このようにしびれや痛みが発生した場合にどう対応するか、患者が受診する場合はどの診療科を受診するかフローチャートを作成し、誰でも適切な対応できるようにしておくと良いでしょう。

フローチャート作成時のポイントは、症状の発生時期が採血中か、後日か、症状を発生したのが外来患者か入院患者かにより対応が異なります。また休日の場合も対応が異なりますので状況に応じて数種類作成すると良いでしょう。受診が必要な場合はどの診療科を受診するのかを明確にしておくことをお勧めします。

このフローチャートは外来や採血室、入院病棟の処置室など実施する場所には掲示し、採血に携わった職員が誰でも対応ができるようにしておく事が望まれます。

4患者への説明

患者は「採血に危険が伴う」という認識が低い場合があります。そこで、採血を実施する前に採血の危険性や副作用も含めた説明を行って、採血の実施中・実施後に適宜状況を確認することで、採血に伴う異変により早く気付くことができます。

1.採血前
採血前の確認事項としては、ラテックスアレルギーや消毒用アルコールのアレルギーの有無、抗凝固剤の内服の有無の確認をしてください。また、血管迷走神経反応が起こる場合もあるので採血による気分不快の有無などを確認します。以前、採血で気分不快や転倒をした方はあらかじめ臥位で採血を実施します。
透析でシャントがある患者の場合は、シャント側からの採血は避けます。点滴を実施している場合、実施している側から採血をすると電解質の値が変わる事があるので避けます。乳房切除術を受けた患者は切除側からの採血は避けます。
2.採血中
採血中は、患者にしびれや痛みの有無を確認する声かけが必要です。患者はしびれや痛みを「ビリビリとする」「ズキンとする」というように表現することがあるので注意します。採血中は気分不快についても確認してください。
3.採血後
採血後は止血を十分に行うように促します。特に抗凝固剤を内服している場合は注意します。また、採血終了後に気分不快を訴える方もいるので注意します。気分不快を訴えられたら、しばらく休んで(坐位・臥位)いただき気分が回復したことを確認します。

リスク回避のコツ

皆様の施設においては以上の採血前・中・後の注意点について説明のポスターを作成し採血室の待合室に掲示する、パンフレットなどを作成し手にとって事前に読んでもらうようにするなどの工夫をすると良いでしょう。そして、採血実施前に再度注意点を伝えてください。