事例4「患者間違い」

患者確認の重要性 患者確認の重要性 患者確認の重要性 リスク回避のチェックポイント リスク回避のコツ

1.検査に関連したヒヤリ・ハットと医療事故の現状

(財)日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の平成18年年報*1によると、平成18年1月〜12月までの臨床検査に関連した「ヒヤリ・ハット事例」の1,129件の発生状況の内訳は、

  1. 取り違え385件(34%)、
  2. 手技・手順間違え236件(21%)、
  3. 入力間違え96件(9%)、
  4. 判断間違え67件(6%)、
  5. 操作間違え・不具合38件(3%)となっています。

その中の 1.取り違え385事例の内訳を見てみると、

  1. 患者間違え101件(26%)、
  2. 検体間違え91件(24%)、
  3. 検査項目間違え81件(21%)、
  4. 部位間違え11件(3%)

となっており“患者間違え”が第一位になっています。【図1参照】


【図1:臨床検査における取り違えのヒヤリ・ハット事例の内訳】
上記報告書には「ヒヤリ・ハット事例」とは別に、“患者間違え”の「医療事故事例」として以下のような事例が報告されています。

【患者間違えの医療事故の例(平成18年年報より)】

  • 名前確認を怠り、他の患者のスピッツを取り違えて採血した。検査室からの指摘により間違えに気づいた。
  • 患者の採血を取り違え、実際の白血球数は1,600だったが白血球6,000と報告された。その結果患者にタキソールの点滴が投与された。

生理学検査や検体検査において患者を間違えることは、その後の患者の治療や処置などに大きな影響を及ぼします。また、再度検査を実施することになれば、患者に検体採取等で苦痛を強いることになります。

また、(財)日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の平成21年年報*2によると、平成18年10月1日から平成21年3月31日までの“患者間違え”に関連した「ヒヤリ・ハット事例」736件のうち、検査に関わる“患者間違え”の「ヒヤリ・ハット事例」は282件ありました。その発生状況の内訳を見てみると、実施段階が123件(44%)、準備段階83件(29%)、実施後の観察及び管理31件(11%)、指示出し26件(9%)、指示受け取り・申し送り13件(5%)となっています。【図2参照】

【図2:患者間違えのヒヤリ・ハット事例の発生状況の内訳】

上記報告書には、「ヒヤリ・ハット事例」とは別に患者間違えに関連した「医療事故事例」は薬剤、輸血、検査などを通して59件あったと報告しています。そのうち検査の“患者間違え”は10件ありました。
この10件の医療事故の例を準備段階、実施段階、観察・管理段階に分けて以下に示します。

【患者間違えの医療事故の例(平成21年年報より)】
〔準備段階〕

  • 血液型検査で「A型Rh+」であったが、今回は「B型Rh+」と異なる結果であったため、確認したところ、検体では患者Xで検体ラベルは患者Yのものであることがわかった。医師が患者Yのオーダリング画面を開いたまま患者Xの検査を依頼した。

〔実施段階〕

  • 検査予定患者一覧を見たが、スピッツと患者を確認せずに患者Aの分を患者Bと思い込んで採血した。A患者の採血の値が今までの値とあまりに違うため医師が間違えに気づいた。

〔観察・管理段階〕

  • ホルター心電図解析作業で、解析データ取り違えが起きた。患者Aと書かれた表紙に患者Bの解析データを挟み製本した。判読医も気づかず、主治医は患者Bの判読結果を患者Aに説明した。約半年後、臨床検査技師の指摘で取り違えがわかった。

2.患者確認の重要性

臨床検査技師が関わる業務で、患者誤認が発生する主な場面として考えられるのは、心電図検査や脳波検査、超音波検査、採血などが挙げられます。検査前の患者確認、検査内容・項目の確認が重要になります。

患者を検査室に呼び入れるときに、その患者はこの検査を受ける患者本人なのかをそれぞれの施設の患者確認のルールに従って確認することや、患者と検査の指示や伝票が合っているかどうかを確認する必要があります。

検査の結果は患者の診断・治療に大きな影響を与えますので、患者に検査を実施するときは患者確認を十分に行う必要があります。 The Joint Commission※1は毎年“National patient Safety Goals”※2を決めています。その中の臨床検査部門には、「患者を特定する2つの方法を使用すること」が挙げられており「患者の氏名と生年月日を使用して医療や処置を実施する」*3としています。【※3参照】

※1 The Joint Commission とは
1951年に創立された米国の非営利団体。ヘルスケアを充実させるために継続的に医療機関を評価・認定するとともに安全で質が高い効果的な医療のプログラムを調査・研究・開発し医療機関や団体等に提供している。

※2 National patient Safety Goals とは
The Joint Commissionの中で、医療・患者安全の専門家で構成されたメンバーが2002年から毎年策定している“患者の安全を守るための目標”。外来、病院、在宅、臨床検査、介護など分野別に具体的に行動できるように策定されている。

Laboratory National Patient Safety Goals 2011

Use at least two ways to identify patients.
For example, use the patient’s name and date of birth. This is done to make sure that each patient gets the correct medicine and treatment.

【※3 Laboratory National Patient Safety Goals 2011】 

こうすれば事故は未然に防げるかもしれない!!
リスク回避のチェックポイント

1同姓同名のリスクを知る

たとえば、患者確認の場面で技師が「鈴木さんですね」問いかけ患者が「はい」と答えても患者確認は十分とは言えません。患者の姓は同じ場合もありますし、中には「鈴木一郎さんと鈴木伊知郎さん」のように氏名の読みが同じで漢字が異なる場合もあります。また、「中田さんと田中さん」「大田さんと本田さん」のように字体や読みが類似の姓もあります。

2患者側の聞き違えリスクを知る

その他、患者誤認が起こりやすい状況としては、病院内は様々な音であふれているため氏名を聞き取りにくかったり、患者は自分が呼ばれるという思いで待っているため氏名を聞き間違えたりします。また、難聴などの患者側の要因で聞き取りにくいことがあります。

リスク回避のコツ

患者確認方法として、技師が「安全のためにフルネームでお名前を教えてください」と患者に声をかけ、患者自身にフルネームを名乗っていただき確認します。

同姓同名患者や類似氏名の患者もいるので、患者確認はなるべく2つ以上のもので実施することが望ましいと言われています。たとえば、外来であれば診察券のID番号と患者氏名、生年月日と患者氏名などになります。

そして、全ての職員に患者確認の具体的な方法と必要性を伝え、職員全員がルールを守ることが重要です。また、外来患者、健診利用者、入院している患者・家族などにも患者確認の必要性と患者確認方法を伝え協力を得る事が必要です。

リスク回避のお役立ち情報

医療安全全国共同行動では、行動目標8に「患者・市民の医療参加」の中で、(a)「安全は名まえから」(患者と医療者の協同によるフルネーム確認)*4を薦めています。医療従事者と患者が双方で、フルネームで患者確認することや、生年月日での患者確認を推奨しています。具体的なハウツーガイドやツールは医療安全全国共同行動のURLにアクセスをしてメールアドレスを登録すると入手できますので、是非活用してください。

また、「リスクマネジャーのための医療安全実践ガイド」*5にも患者確認の具体的な対策やフルネームを名乗るように呼びかけるポスターも掲載されていますのでご活用ください。(社)日本臨床衛生検査技師会編の「医療安全管理指針」*6の中にも患者確認方法が記載されていますので参考にしてください。