リスクマネジメントプロセスについて

リスクマネジメントプロセスとはコラム ミステイクとスリップ インデント報告の重要性

日ごろのインシデント報告書や業務上の問題点などを
リスクマネジメントプロセスで考えてみたい!!

リスクマネジメントプロセスとは

医療におけるリスクマネジメントの目的は3つあります。
まず、事故防止活動などを通して、組織の損失を最小に抑えることです。
次に、患者・家族、来院者および職員の安全を確保することです。 そして、医療の質を保証することです。

そのためにリスクマネジメントプロセスを活用することが大切になります。
リスクマネジメントプロセスとは、リスクを把握(ヒヤリハット・事故報告書、意見箱、利用者アンケートなどにより情報収集をする)、分析・評価(リスク重大性や発生可能性から対応の優先度を決する)、対応方法の決定(要因分析を行い対策を立案する)と実行、再評価(実施状況の効果を確認・評価する)するプロセスを言います。


それでは、採血のインシデント報告の具体例を挙げリスクマネジメントプロセスについて説明していきます。

(1) リスクの把握

医療安全管理者が、インシデント報告書を集計した結果、健診の採血実施時、真空採血管(以下スピッツ)の取り違い事例が今月は5件、先月は6件発生していました。そこで臨床検査部門で医療安全を担当している人が、採血実施前後の業務の流れや状況、問題点の把握のため聞き取り調査を行ないました。その結果同じようなインシデントを他の看護師、臨床検査技師も起こしていたことが分かりました。採血実施時のスピッツ取違えは、どのような間違いなのかを確認したところ、ほとんどのケースで「灰色のゴム栓」スピッツを取ろうとして「紫色のゴム栓」スピッツを取り出してしまう間違い、すなわち“スリップ”(*コラム参照)が発生している事がわかりました。そこでリスクマネジメントプロセスで考えていきます。

コラム:ミステイクとスリップ

間違え(エラー)には2つの種類があります。それは<ミステイク>と<スリップ>です。

ミステイク

これは、意識的に不適切な目標を選んでしまう間違いです。 この事例の場合、「灰色のゴム栓」のスピッツが正しいスピッツであると思い込み、「灰色のゴム栓」のスピッツを取ってしまう間違いです。

リスク回避のコツ
ミステイクを防ぐには、専門知識を持ち、正しい情報を得ることが必要です。また人は思い込んだら自分では気づけないので、チームで発見し、指摘しあう事が大切です。

スリップ

これは、目標は正しいのですが、目標を行為に移す過程で無意識に発生する、目標とは異なる行為を行うことによる間違いです。
この事例の場合、「灰色のゴム栓」のスピッツをとろうとしたのに、実際に取るときに間違えて「紫色のゴム栓」のスピッツを取ってしまう間違いです。

リスク回避のコツ
スリップを防ぐには、焦らず自分のペースで実施したり、指差呼称(唱)を行ったり、多重課題を避け集中できる環境で仕事をしたり、環境を整理し分かりやすくするなどが大切です。

(2) リスクの分析・評価

リスクの重大性や発生可能性を考えると、間違えて実施した受診者については再採血の必要があり、受診者への負担が大きく、同様の事例が今月5件、先月6件発生していることから、このままでは受診者や契約企業の信頼を損ねる可能性が高くなるので、すぐに対応策をとるべきであると判断しました。

(3) 対応方法の決定と実行

事例を分析して要因を検討した結果、

  1. スピッツの大きさが似ている。
  2. スピッツのゴム栓の色が似ている。
  3. その2つのスピッツの箱が隣同士に設置してある。

ことが挙げられました。そこで対応策として、

  1. 「灰色のゴム栓スピッツ」と「紫色のゴム栓スピッツ」の箱の間に、その2種類のスピッツとは大きさもゴム栓の色も異なる「茶色のゴム栓スピッツ」の箱を設置する。
  2. 各スピッツの栓の色と同じ色紙を箱に貼り、同色のカードを立てるという対策を実施することにしました。対策について定例会で発表するとともに、ポスターを作成し院内に掲示し職員への周知をはかりました。

(4) 再評価

対策の周知・遵守状況は、対策実施後1カ月分のインシデントレポートの結果で評価することにしました。その結果1カ月間に同様のレポートはなく、効果があったと考えられました。この結果を医療安全管理委員会で報告し、さらに対策を3カ月継続した上で再度評価することにしました。

(5) 臨床検査業務とリスクマネジメントプロセス

臨床検査技師の皆様が携わる業務は、患者の治療や予後に大きく関わります。また、臨床検査技師単独ではなく、さまざまな職種が関係し発生するインシデントもあります。そこで、日ごろの提出されるインシデント報告書や業務上の問題点などをリスクマネジメントプロセスで考えてみてください。
対策を立案する時は、

  1. インシデントレポートに記載されている内容だけではなく、充分なヒアリングを通して状況を正確に把握する。
  2. 多職種の関係者で対応を検討する。
  3. 院内の共通ルールとして対策を全職員に周知する。
  4. 評価日を予め設定し、効果を再評価することが大切になります。
インシデント報告の重要性

(社)日本臨床衛生検査技師会の『医療安全管理指針』ではインシデントの定義を「思いがけない出来事(偶発事象)で、これに対して適切な処理が行われないと事故になる可能性のある事象。現場ではこれを“ヒヤリ”“ハット”と表現することもある。インシデントについての情報を把握・分析したりするための報告書をインシデントレポートという。(後略)」としています。皆様が所属される施設の基準に沿ってインシデント報告を提出してください。

(1) インシデント報告の意義

状況が把握できなければ、問題点を検討することができず、対応策を考えて実施することもできません。事前に回避され患者に影響を及ぼさなかった事象でも、大きな事故につながる潜在するリスクがあるので、臨床検査技師の皆様は「何かあったら報告する」ことを習慣化し、もれなく報告することが重要です。
ではここで、インシデント報告の意義を大きく3つの視点で述べます。

まず部署・部門・組織にとっては、責任者・管理者が危険を把握できれば、

組織として危険要因を発見し対応策を検討し実施する事ができます。また情報を共有することができれば職員全体の安全意識の向上につながります。
次に個人にとっては、文字・文章にすることで、

振り返りができます。そしてその過程で「こんなとき危ない」という危険への感受性が向上します。
さらに、医療や社会にとってはインシデント報告や事故報告の収集を通して、

危険なモノ(機器・薬剤)の改善をメーカーに要請することができます。
ヘパリン生食液と消毒薬の誤投与で患者が死亡した事例や、血管に胃チューブから注入予定の内服薬を誤って投与し患者が死亡した事例を受けて、

注射器ではカラーシリンジ(注射器の内筒が赤や緑に色分けされている注射器)や、口径が異なり点滴用の三方活栓には接続できない注射器などに改善されました。
最近では「サクシン:筋弛緩薬」」と「サクシゾン:副腎皮質ホルモン薬」の誤投与で患者が死亡する事故が複数発生し、

製薬会社が薬品名を「サクシン」から「スキサメトニウム」に変更しました。
このように皆様がインシデント報告をすることは、部署・部門・組織にとっても、個人にとっても、医療や社会にとっても、より安全な医療を提供するためにとても重要なことなのです。

(2) インシデント報告の活用

インシデント報告の内容を自分の施設の医療安全活動に役立てる事が大切になります。
一定期間毎に内容別などに報告数を集計することによって、

インシデント報告の推移をみることができます。
インシデント報告の現状や増減の傾向を把握し医療安全ニュースなどの院内報で周知することで、

職員の医療安全に対する意識が高まり、こんな時に気をつけようと自分自身に置き換えて考え実施する事ができます。
さらにインシデント報告の集計を継続することで

対策立案前後のインシデントの発生数を比較する事ができ、潜在危険事象に速やかに発見し事故を未然に防げるようになります。