Pipette Vol7
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7◆古代から近代にかけての輸血血液は生命の根元であるという思想は、古代エジプトや古代ローマの時代からあり、王族や貴族が病気になったりすると、人の血液を啜ったという記録も残されています。もちろん、そのような行為は非科学的であり現代の輸血とはかけ離れた治療法でしかありません。その後、17世紀頃のヨーロッパでは、動物(ヒツジなど)とヒト、ヒトとヒトの間で血管から血管への輸血も行われました。当然のことながら、今でいう「不適合輸血」による死亡例も半数以上あり、そのため輸血行為が禁止され、その後150年以上も輸血がされない時代がありました。19世紀に入り、イギリスの産科医のJ・ブランデルはヒトとヒトの間での輸血が重要であることを強調し、産後の患者へ輸血をし、一部の患者で効果をもたらしました。しかしその他は惨憺たる結果であったことはいうまでもありません。◆血液型の発見近代輸血学は1900年に、オーストリアのK・ラントシュタイナーのABO血液型の発見により始まりました。ラントシュタイナーは、人の血清に他の人の赤血球を混ぜると凝集する(固まる)場合と凝集しない場合があることから、血液に型があることを発見しました。ラントシュタイナーが発見したのは今でいうA、B、O血液型で、AB型は翌年、弟子のA・デカステロらによって追加されました。一般的に血液型というと、ABO血液型やRh血液型のことをいいますが、実際の赤血球の膜には300種類以上に分類される多くの抗原が存在します。◆輸血をする際の血液型検査その中でも、必ず検査しなければならない血液型はABO血液型とRh血液型です。ABO血液型はA型、B型、O型、AB型の4つに分けられます。A型にはA抗原、B型にはB抗原、AB型にはAとBの両抗原がありますが、O型にはどちらの抗原もありません。一方、血清には、自分の赤血球と反応しない抗体があって、A型にはB抗原と反応する抗B、B型にはA抗原と反応する抗A、O型には抗Aと抗Bがあります。ところがAB型にはどちらの抗体もありません。以上のことをラントシュタイナーの法則ともいいます。ABO血液型は赤血球の検査(おもて検査)と血清の検査(うら検査)の両方の検査を必ず行い判定します。検査法には試験管で検査する方法、ガラス板などで検査するスライド法、自動分析機で検査するカラム凝集法などがあります。厚生労働省の「輸血療法の実施に関する指針」には、血液型不適合輸血を防止するために、血液型は1回の採血検体で2つ以上の方法で検査を実施し、かつ一患者で2回以上検査を実施し、それらの検査結果が一致した場合に血液型を確定することや、輸血検査は臨床検査技師が24時間体制で実施することが望ましいと明記されています。◆安全で適正な輸血をめざして血液型の発見以降100年余りの短い輸血療法の歴史の中で、抗凝固剤(血液を固まらないようにする薬剤)の発見、消毒の概念の発達、血液銀行の設立、売血から100%献血への移行など、さまざまな先人の努力によって現在の安全で適正な輸血療法は築かれてきました。検査技術の向上などにより、近年、血液製剤の安全性は格段に向上してきましたが、血液は人体の一部であることに変わりはなく、免疫性、感染性などの副作用が生じる危険は避けられません。現在では、全血(血液全体)を輸血するのではなく、不足した成分を必要とする分だけ輸血する補充療法が原則となっています。●ユダヤ人として人種差別主義に抵抗したカールですから、日本人のかなりの人数が同感してしまう? 「血液型別性格診断」も差別につながるとして否定することでしょう。血液型物質は植物・細菌・動物にも存在し、ヒトだけのものでもありません。●例えば、中南米では9割近くがO型で輸血時不適合の心配も少なそうですが、日本人はA型38%、O型31%、B型22%、AB型9%(約30万人の統計とされる)というバランスの分布のためか、「血液型で性格は形成されない」と科学的に証明されても、「性格診断」はいまだ統計的な風説としての説得力を持っているようです。実際に、海外で活躍する日本人大リーガーはほぼO型とB型で占めます。血液型をめぐる謎はまだまだ尽きないようです。◆血液型の検査

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