Pipette Vol.11 Spring 2016
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11◆マラリアとはマラリア原虫を体内に持つ蚊(ハマダラカ)に刺されて感染する原虫疾患です。サハラ以南の熱帯アフリカを主として世界の100カ国以上で流行しており、毎年2億人以上が感染し、約44万人が死亡していると推定されている世界最大の感染症です。人に寄生するマラリアは主に4種類ですが、特に致死率の高い熱帯熱マラリアのことを悪性マラリアとも呼びます。人の体内では主に赤血球に寄生し、その中で原虫が分裂増殖して赤血球を破壊します。主な症状は1~2週間の潜伏期の後、周期的に40℃前後の高熱を発し、数時間後に大量の発汗とともに解熱します。熱帯熱マラリアは治療が遅れると脳症、急性腎不全などで重篤な状態となります。血液検査では赤血球・ヘモグロビン・ヘマトクリット・血小板の減少、LD・FDP・プロカルシトニン増加がみられます。◆マラリアの検査血液中に潜むマラリア原虫を発見することが重要です。血液塗抹標本にギムザ染色を施して顕微鏡で観察し、マラリア寄生赤血球を見つけて、形態的特徴からマラリアの種類を鑑別します。鑑別が困難な場合は、イムノクロマト法によるマラリア原虫蛋白の検出や、PCR法を用いたDNA診断を実施します。◆治療と予防一般的なマラリア治療薬にはクロロキンが使われます。しかし近年、クロロキン耐性マラリアが報告され問題となっています。三日熱マラリアと卵形マラリアには、根治療法としてプリマキンが使われます。熱帯熱マラリアにはクロロキン耐性が進行しているため、合併症の有無をみて別の治療薬を使用します。予防法は、蚊に刺されないようにすることが重要です。流行地では長袖服の着用など肌の露出を少なくすること、防虫スプレーや蚊取り線香の使用や就寝時は蚊帳の使用も有効です。日本企業が開発した繊維に殺虫成分を練り込んだ蚊帳はWHOに認められ、使用が推奨されており、UNICEFなどの国際機関を通じて、マラリア流行地域に供給されて感染予防に効果をあげています。◆蚊媒介感染症マラリア、ウエストナイル熱、チクングニア熱、日本脳炎、デング熱、ジカ熱、黄熱、フィラリア症などの疾患があります。日本では馴染が少ないですが、日本脳炎はワクチン接種により国内発症が激減したものですし、デング熱は2014年8月に約70年ぶりに国内感染例が報告され、東京都を中心に160人以上の感染が報告され、記憶にも新しいものです。海外渡航による輸入感染や地球温暖化による媒介蚊の生息域の変化も、国内感染のリスクを増やしています。蚊の一刺しで重い病に罹らないように気をつけたいものです。●若くして急逝した大王の遺言は「わが後継は最も強きものに」。これにより、王国は分裂して覇を競い合う三国鼎立に移行し、その後、新興のローマ帝国に滅ぼされてしまいます。大王にマラリアを媒介した蚊が世界の歴史を大きく変えたことになります。●メソポタミア地方の古代都市で、大王がマケドニア王国の王都と定め、大王の終焉の地にもなったバビロンは衰退して砂漠化し、19世紀に発掘されました。バビロンは旧約聖書のバベルの塔の伝承でも有名です。◆蚊媒介感染症の検査ヒトのマラリアの種類と発熱周期三日熱マラリア48時間毎四日熱マラリア72時間毎熱帯熱マラリア不規則(48時間)卵形マラリア48時間毎熱帯熱マラリア原虫の輪状体(3個寄生)シナハマダラカの雄(吸血時、側面から観察)

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