Pipette Vol.13 Autumn
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●グッジョブ・技師のお仕事ゲスト 古賀稔彦5輝かせるためには、その子だけに努力させても絶対に無理です。その子を成長させるためには、自分が主役であるときよりももっと努力をしないと、主役を輝かせることはできないと思っています。ということもあって、選手の怪我や内面的な部分をどのようにサポートしていくかということで、医学の世界に飛び込みました。―医学博士の資格をとられたのは、そういうことだったんですね。ほんとうはいやだったんです(笑)。4年間、行かなければいけないし、お金もかかるし、そんなに勉強が好きなわけでもないですからね(笑)。だけど、選手を輝かせるためには、まずは自分がそれだけの努力をしないと駄目だと思ったので、「よし、やろう」と決めて飛び込みました。―優秀なドクターを連れて来て、面倒を見てもらうというのでは許せなかった?現場にいるのはぼくなのでね……。5月になると五月病というのがありますよね。スポーツ界では、あれは精神力が弱いからだ、やる気がないからだ、それで終わっていました。でも、五月病になる原因が、ぼくがやっているスポーツ医学の中でわかってきています。そうした裏づけを理解した上で指導していくのが、一番合理的だと思うんです。怪我、メンタル的な部分というのは、スポーツと大きく関係しているので、「なぜ、この子は、今、やる気が出ないのか」「この怪我であればどのくらいまでできるのか」「この怪我だったら、すぐに専門のドクターに連絡して適切なアドバイスを受けたほうがいい」ということを判断するためには、自分から医学の現場に入ればいいのではと思ったわけです。そうなれば、ドクターとも仲良くさせてもらえますし、何かあったときにはすぐに連絡して、最適な対応を教えてもらえたりしますからね。こちらも見た目だけで判断するのではなく、必ず裏づけを持って、選手に「今、こういう状況だからこれはやっても大丈夫だよ。でも、これは絶対にやっては駄目」という話ができれば、選手も理解しやすいと思うんです。―私の上司が先生でしたら、今の3倍ぐらい仕事をするのではないかと……。そんな気持ちになりました(笑)。心の器を大きくするいえいえ(笑)。でも、サポートする側でいるというのは、そこそこ疲れますよ。相手の心理も読まなければいけないし、その子の普段の行動も知っておかなければいけないですからね。私の場合、現場に入るときは、まずは全部を受け入れようと、自分の心の器を大きく持ってからにしているんです。いいものも、悪いものも全部受け入れて、「では、この子には」というようにして、指導する方向性を決めていくんです。受け入れるというのは、けっこう大変なことです。―そう思います(笑)。「お前が負けたから悪いんだよ」とか、「お前はセンスがないから駄目なんだよ」と言ってしまったほうが楽なんですけど、主役は選手であり、部下であるわけですから、器を大きく持ってすべてを受け入れていく……。精神的には、けっこうきついですね。しょっちゅう胃が痛くなって、痛め止めを飲んでいますから。―そんなに苦労されている先生をフォローしてくださるのはどなたですか。薬だけです(爆笑)。実際、薬が一番効くんです(笑)。今、教え子たちに伝えていることは、これは私が現役時代にやっていたことでもありますが、「何かに向かうとき、頑張り過ぎないこと」。頑張り過ぎると疲れてしまうんですね。

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