Pipette Vol.13 Autumn
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8国際交流編ブータンで初めての雑巾―ブータン王国に柔道場ができて、そこに畳100枚を寄贈されたという先生のブログを拝見しました。私の遺伝的な性格、職人気質といいますか、何かをやるとき、もっと何かないかな、もっと、もっと、もっとという気持ちが強いんです。何かをやるのであれば、「これは、こうしたほうがもっといいんじゃないかな」「それだったら、もっとこうしたほうが」と、1つの行動の中で追求していく欲があるんです。柔道でも、「この練習、もっとこのようにしたら強くなるんじゃないかな」「こんな考え方のほうがいいんじゃないかな」「もっと何かないかな」と思ってしまう自分がいるんです。ブータンに畳を寄贈したとき、行ってみたら雑巾で畳を拭くことが理解してもらえない。「雑巾ください」、「送りました」ではなくて、ブータンの子どもたち、古賀塾の子どもたち、雑巾を準備してくれた保護者の人たち、みんなが一緒に喜んでもらえるようにしたいなと発想したんです。雑巾に名前を書くことによって、「○○くんの雑巾で、きれいに掃除しよう」、「雑巾もきれいに洗って大事に使おう」って思うじゃないですか。古賀塾の子どもたちには「みんなの名前の入った雑巾が外国で使われているんだよ。それを使って、同じように、一生懸命、掃除しているんだよ」と言えますし、お母さんたちも「私が縫った雑巾がブータンで、こんなふうに使われているんだ」となりますよね。そうなったときに、まさに柔道の精神である「精力善用・自他共栄」が達成できるんです。人の役に立ちなさいという精神を、子どもたちを通して保護者にまで感じてもらえるわけです。自分たちの雑巾がブータンで使われているなんてことは、絶対にないことですからね。―普通ではあり得ないですよね。自分の家のものがブータンにあるなんて、まずないでしょ(笑)。文房具も、プレゼントするということで持って行ったんです。自分たちが使っていた消しゴムを、ブータンの子どもたちが喜んで使っているなんていうことは、想像しただけでもうれしいことですよね。そうすると、鉛筆1本、消しゴム1つ、今まで意識していなかったのに、それを見るたびに「ブータンに送ったよな」と思って、人の役に立つっていいなあっていうことを感じられる瞬間にもなると思うんです。―子どもが成長するときに思い出して、将来のきっかけになる可能性が十分あると。ええ。われわれが贈った雑巾は、ブータンの社会に初めて入った雑巾かもしれないですね(笑)。ブータンには、雑巾の生活環境がないですから。インタビューを終えて人材育成論の確かさに圧倒され、時間を忘れました。管理者にもきわめて参考になるお話をうかがうことができました。      *次回は、日本人の母を持つオーストラリア人の歌手サラ・オレインさんをゲストに招き、日本での音楽活動や人生の目標についてお聞きします。お楽しみに。プロフィール●1967年福岡県生まれ、佐賀県出身。柔道八段、古賀塾塾長、医学博士。IPU環太平洋大学体育学部体育学科教授、IPU環太平洋大学女子柔道部総監督。日本健康医療専門学校校長。日本体育大学進学後「平成の三四郎」の異名をとり、世界選手権2階級制覇。1992年バルセロナ五輪で金メダル獲得。1996年アトランタ五輪では銀メダル獲得。2000年4月、現役を引退し、2003年4月からは子どもの人間育成を目的とした町道場「古賀塾」を開塾。古賀稔彦Koga Toshihiko協力/(株)日本スポーツエージェント

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