Pipette Vol.16 Summer 2017
2/12

2自然界から採取した土壌などから微生物を単離して培養増殖させて、微生物が作り出す生物活性物質を探り出すというお仕事を通じて、エバーメクチンを発見。これをもとにした薬剤「イベルメクチン」が動物のみならず10億人以上の人間の感染症特効薬として貢献。この業績により2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生にお話をうかがいました。ゲスト 大村 智聞き手 大澤 智彦      (日本臨床衛生検査技師会理事)      (韮崎市立病院副技師長)エバーメクチン発見編分離・分析という基礎―クロマトグラフィは私たち臨床検査技師にもなじみのある検査機器のひとつです。一番よかったのは、山梨大学に当時はマイスター制度があって、入学するとすぐに丸田銓二朗教授の研究室に割り振られ、いつ行っても化学の実験ができたことです。昼はスキーをやったりしていたので、夕方や夜でも実験ができました。臨床検査で分析というのは非常に重要な技術のひとつですよね。化学でも分離とか分析というのはまさに基礎で、そういう基礎が学べたと思います。―ご卒業後は、「昼間の時間を自由に使えるから」と、東京都立墨田工業高校の夜間教師となり、物理、化学だけでなく、体育まで教えられたというエピソードにも驚きました。夜間定時制で懸命に学ぶ生徒に触発されて先生ご自身も学び直そうと決心されたそうですが。当時は苦学生の時代でしたね。夜間高校で教えていたのですが、大学に行き直そうと最初は東京教育大に1年間、聴講生として、その後は、東京理科大で昼間勉強して、夕方になると高校に教えに行って、授業が終わってから、また大学に戻って実験をするという生活をしていました。―それは毎日ですか。平日も、ですか。平日も戻って実験です。「これは」という場合は、土曜日と日曜日、そして月曜日に高校へ出かけるまでの時間、寝袋を持ち込んで実験をやりながら、ちょっと仮眠をしてまた実験をするということをやっていましたね。文子さんとの出会い―24時間、休む間もなく熱心に取り組まれる先生の姿は評価され、東京理科大学80周年記念式典で祝辞を頼まれ、その草稿は、後に奥様となる秋山文子さんが毛筆で清書されました。糸魚川出身の墨田工業高校の教頭先生が「糸魚川に研究者と結婚したいという女性がいる」と紹介してくれました。あまり熱心なので「では、お目にかかりましょうか」と。先方は、糸魚川藩の家老の流れを汲む格式の高い家柄で、文子の父は非常に厳格な人でした。糸魚川まで行ったのに、彼女にすぐに会わせてくれないのです(笑)。―当時、糸魚川まで行くというのは……。遠くて大変でしたね(笑)。教頭先生のご実家のお寺に泊めていただいていたのですが、待てど暮らせど、文子の父は「会う」とも言わない。仕方がないので帰ろうと思っている頃、会うから来てくれと(笑)。そして会うなり、「うちの娘を食わしていけるのか?」。貧乏学生でもあった私の答えは「食わせようだ」。何を食わせるかによるが、という意味だったのですが伝わったかどうか(笑)。その後、認められて秋山文子は大村文子になったわけですが、私にとっての彼女の存在は、それだけで1冊の本になるぐらい、いろいろとありました。まず、何はともあれ私を支えてくれました。煩わしいことはいっさいやらないですむ、まさに研究に専念できる状況を作ってくれましたね。さすがに研究者と結婚したいという農家のご長男として実家を継がれる宿命もあった中、お父様のお許しで山梨大学学芸学部自然科学科に入学。化学の実験では、持ち前の体力と手先の器用さから、クロマトグラフィを使った脂肪酸の定量測定で群を抜いた存在だった。

元のページ 

page 2

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です