Pipette Vol.16 Summer 2017
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9◆疥癬ってどんな病気?「疥かい癬せん」は、ヒゼンダニという体長0.2~0.4㎜の小さなダニで、肉眼で確認することはほとんどできません。皮膚の角質層内に潜り込んで、自分が生息し動き回る範囲にトンネル(疥癬トンネルと呼びます)を掘り、その中で雄雌が交尾の後、産卵します。約2週間で成虫になりますが、成虫は寄生したところから離れると、長く生きることはできません。寄生する身体の部分で多いのは、手首、指の間、肘、脇の下などです。また、疥癬の感染形態には、「通常疥癬」(ダニの数が約10~20匹)と、「角化型疥癬」(ダニの数が約100万~200万匹)の2種類が知られています。「通常疥癬」では赤いブツブツや疥癬トンネルが見られ、「角化型疥癬」ではひび割れた厚いカサブタ状になり、乾燥したカサカサした状態になるのが特徴です。◆疥癬の症状前述したように、指の間、脇の下などに多く寄生しますが、「通常疥癬」では、頭や顔を除いた腹部や背中などにも寄生し、夜間に、全身に激しい痒みが起こるのが特徴とされています。その痒みは、虫体、脱皮した殻、糞によって人が持っている免疫反応、つまりアレルギー反応を起こすことが原因です。しかし、免疫の抵抗力が落ちた患者さんや高齢者では、あまり痒みを訴えない場合もあり注意が必要です。◆疥癬の感染疥癬は、人から人へ移動して感染します。前述のとおり、人から離れると短時間で死んでしまいますから、長時間、感染している部分の皮膚と皮膚が接触した場合に移ることが多いようです。しかし、角化型疥癬の場合はダニの数が多いので、患者さんが使用した寝具などを消毒せずに再使用した場合に感染が起こることも知られています。そのような場合、寝具、シーツ類の交換や、それを再使用する場合は50℃以上のお湯に10分以上浸たし、高温での乾燥などを行うこと必要です。◆疥癬の検査感染が疑われる皮膚を、ダーモスコープ(皮膚専用の拡大鏡)で拡大して観察する方法(ダーモスコピー検査)でヒゼンダニを見つけるほか、皮疹の表面を専用のメスでこすって採取した組織片を、試薬で処理し、顕微鏡で観察して虫体、卵(抜け殻も含む)を確認することで診断が確定します。血液検査では疥癬に感染していることは診断できません。平成27年の春より、厚生労働省指定の講習会を受講し、認定を受けた臨床検査技師は、患者さんの皮膚を直接採取し、拡大鏡や顕微鏡下でヒゼンダニの虫体や卵を見つける仕事も、業務として実施できるようになりました(平成29年4月現在、約3万人が受講修了)。◆疥癬の特効薬疥癬は、市販の薬剤ではあまり効果が期待できません。医療機関で医師に処方されるものが一般的です。塗り薬としてはフェノトリンローション(製品名:スミスリンローション)、クロタミトンクリーム(製品名:オイラックスクリーム)があります。内服薬としては、本号のインタビューでお話をうかがった大村先生が発見し、ノーベル賞を受賞されたイベルメクチン(製品名:ストロメクトール錠)の効果が大きいことが知られています。また、強い痒みの患者さんには、ヒゼンダニを殺すことはできませんが、かゆみ止めとして抗ヒスタミン剤が処方される場合もあります。◆最近の感染の特徴高齢者福祉施設や養護施設で、一人の角化型疥癬患者から感染が広がっていったケース、病院など医療施設で通常疥癬の皮疹が見過ごされ、他院に転院後、専門医の診断で疥癬であったことが見つかるようなケースが見られます。本号の「空想検査」で取り上げた吉田松陰は疥癬を患い、渡米を夢見て密航を模索しつつも、その治療も兼ねて?湯治を行ったという資料が残っています。古来、わが国では、皮膚病には温泉のイオウ成分にそれを癒す効果があるということを、博学だった松陰も知っていたのでしょうか。●松陰の妹・寿(ひさ)は、「太平洋を超えたいという兄の夢を果たしたい」と明治9年に群馬出身の実業家・新井領一郎が渡米する折、兄の形見の短刀を託した(※)とされてきました。※領一郎の孫、ハル・松方・ライシャワー=元駐日米国大使夫人=の著書より。●平成29年、その短刀が領一郎の子孫より前橋市に寄託されました。松蔭の「武士の魂」は、アメリカを往復したことになります。◆疥癬(かいせん)の検査前橋文学館で展示された短刀(時事通信フォト)

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