Pipette Vol.17 Autumn 2017
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●グッジョブ・技師のお仕事ゲスト 大村 智5したね。若く才能ある画家の発掘も目的の一つですが、第1回目だけでも千点以上の応募作品がありました。そうそうたる審査員にその中から約80点を選んでいただきました。さらには作品を大事にしてくれるならばと、画家自身、画家のご遺族、一般収集家を含めて、寄贈作品も多いわけです。たとえば、岡田謙三先生。世界的に有名な画家です。百何十点という絵が学校法人北里研究所収蔵になっていますが、そのいきさつはこうです。船で日本に持って帰ってきた絵が、横浜の倉庫に入れてあって、未亡人から、それらの絵を北里に納めたいという申し出があったのです。これにはみんなびっくりしましたね。こんな大作のコレクションは世界にないですから。埼玉県出身の画家で、芸術院会員の渡邊武夫さんの絵もそうです。ご遺族は、「できれば埼玉県の病院に寄付したい」という意向を持っていて、真っ先にKMC病院の名を挙げてくださったのです。7点、寄付していただきました。実は、絵は遺されても困るものなのです。展覧会などをやるときには、200号くらいの絵をたくさん描きますが、遺された人にとっては、この絵をどうするかは大変な悩み事です。絵画に囲まれたパーティ―KMC病院と同一敷地内の北里看護専門学校に併設された大村記念館には、今お話があった国内最大級の岡田謙三コレクションのほかに中国の人間国宝ともいえる王森然の自由闊達な晩年の作品群、先生が大好きな鈴木信太郎の作品なども展示されています。記念館のエントランスホールでは大きな作品の展示の前でパーティなども催されていますね。私は、日本の学士院に相当するNAS(米国科学アカデミー)のメンバーに、外国人会員としてかなり早い時期に選ばれました。リンカーンが作ったというノートにサインをするという式典の後に、大きなレセプションが美術館で催されました。美術館には空間がありますから、そこに料理を持ち込むんです。日本は、美術館は絵を見るところという考え方ですが、アメリカでは絵が生活の中に入っています。絵をどこでも見られるようにするという芸術のほんとうのあり方をアメリカで学び、体験してきましたから、記念館でもそのようなやり方を取り入れています。北里の看護師さんたちは、すばらしい絵に囲まれながら、エントランスホールでレセプションをやっています。とてもいい雰囲気ですよ。―絵の前で飲食しながらというのは最高でしょうね。今までとはまったく違う、変わったことをやってきていますが、そういう度胸はあるんですね、私は(笑)。基本的には、あとで批判されるだろうかと心配するより、いいことをやれば必ず賛同者が現れると思っているほうなんです。ですから、「よく、こんなことをやったなあ」ということをあちこちでやっていますよ。そのときは必死だったから、やれたんだろうと思いますね。ただ、絵を買い込むことについて、看護師さんに「私たちの給料分で絵を買っているのでは」などと誤解されてはいけないですから、別の予算で買っていることを示すために、その購入費用は、私が関連する特許料からとして、はっきりさせました。ですから、絵の下にも「大村美術品コレクション」ときちんと明記しています。こうした配慮は必要ですね。経営者編「研究を経営」する―覚悟のいるご提案だったと思います。監事としての責任感から経営を学習されたわけですね。研究所や大学の理事になるという先生方は、だいたい教授をやられていて、たしかにいい研究をされたと思うのですが、経営となると、これ北里研究所の監事に就任後、財務諸表の見方や原価計算の方法など民間企業で当たり前に行われていることを徹底して学習。研究所の経営方針について理事会で発言をして大きな反発にあうが、ひるまず、研究所長と理事会へ「上申書」を提出。「オール北里の相乗的発展のためにも新たな事業計画を」と訴え、KMC病院の新設を提案。新病棟ではフロアごとにシンボルカラーが決められている

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