Pipette Vol.17 Autumn 2017
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9◆食道がんとは?食道はのどと胃をつなぐ長さ約25㎝、太さ2~3㎝、厚さ約4㎜の管状の臓器で、食べ物が通りやすいように内側が粘液を分泌する粘膜でおおわれています。食道がんは、この粘膜の表面にある上皮から発生し、日本では、食道がんの90%以上が扁平上皮がんというがんですが、欧米では腺がんが増加しており、そのほとんどは胃の近くの食道下部に発生します。わが国でも、生活習慣の欧米化によって、今後、腺がんが増えることが予想されています。食道がんにかかる率(り患率)や食道がんによる死亡率は、ともに40歳代後半以降に増加し始める傾向にあり、また、女性よりも男性に多いがんです。発症の危険因子(リスクファクター)としては、喫煙や大量の飲酒が明らかになっています。とくに扁平上皮がんでは、喫煙と飲酒が相乗的に作用して発症リスクが高くなることも指摘されています。また、熱い飲食物がリスクを上昇させるという研究結果も多く報告されています。腺がんでは、食べ物や胃液などが胃から食道に逆流する「胃・食道逆流症」に加え、肥満により確実にリスクが高くなるとされています。粘膜上皮から発生したがんは、大きくなるにつれて食道外膜に向かって広がっていきます。食道の周囲には、気管・気管支や肺、大動脈、心臓など重要な臓器が近接しているため、がんが大きくなるとこれらの臓器に広がっていきます。これを浸潤といいます。腹部や首のリンパ節、他の臓器などに転移することもあり、食道がんの早期発見・早期治療が必要な理由となります。◆食道がんの検査食道がんが疑われる場合、一般にX線による食道造影検査と内視鏡検査を行います。食道がんの広がりを調べる検査としてはCT、MRI、超音波内視鏡検査、超音波(エコー)検査があります。血液検査も並行して行われます。●食道造影検査(X線検査) バリウムを飲んで、食道を通過するところをX線で撮影。がんの場所や大きさ、食道の狭さなどの全体像を見ることができる。●内視鏡検査 管の先端に小さなカメラを搭載した内視鏡(ビデオスコープ)を食道に挿入し、直接、消化管粘膜や病変を観察。病変の位置や大きさだけでなく、病変の数、広がり、表面の形状(凹凸)、色調などから病変の進行度を判断することができる。がんが疑われる場所の組織を採取して、がん細胞の有無を調べる病理検査で確定診断される。●CT、MRI検査 CTはX線、MRIは磁気を使用して体の内部(横断面)を描き出し、治療前に転移や周辺の臓器へのがんの広がりを調べる。●超音波内視鏡検査 内視鏡の先端についた超音波装置を用いて、がんがどの程度深くに及んでいるか、食道の外側にあるリンパ節が腫れていないか(リンパ節転移の有無)などについてより詳細な情報を得ることができる。●超音波(エコー)検査 体表面から肝臓や腹部リンパ節への転移、頸部リンパ節への転移の有無を検索。頸部食道がんの場合は、主な病巣と気管、甲状腺、頸動脈など周囲臓器との関係を調べるために行う。●腫瘍マーカー検査 がんの存在により異常値を示す血液検査。食道がんの腫瘍マーカーとしては、扁平上皮がんではSCCとシフラ、腺がんではCEAなどがある。◆食道がんの治療食道がんは初期症状がないことが多く、検診や人間ドックのときに発見されることが20%近くあるとされます。症状としては、がんの進み具合によって異なるものの、食べ物を飲み込んだときに胸の奥が痛む、熱い物を飲み込んだときにしみる、食道で食べ物がつかえる、体重が減少する、胸や背中が痛む、むせるようなせきや血の混じった痰が出る、声がかすれるなどがあります。定期的な検診を受けることはもちろん、症状が続くときは早めに消化器科を受診することが大切です。食道がんの標準治療は手術ですが、病状によっては、食道を切除しない根治的化学放射線療法(放射線治療+抗がん剤治療)や外科手術+抗がん剤治療などの「集学的治療」、さらには陽子線治療、重粒子線治療といった先進治療など、治療法を選択することにより、生活の質(QOL:クオリティ・オブ・ライフ)の向上が期待されています。●徳川御三家である水戸藩の藩主は参勤交代を行わず、江戸に定府し、常に将軍のそばにいることから、庶民に「天下の副将軍」と称されました。●光圀は隠居により権中納言(中納言の中国唐名が「黄門」)に任じられ、後の「水戸黄門」の由来となりました。その死去においては「天が下 2つの宝つきはてぬ 佐渡の金山 水戸の黄門」という狂歌が世間で流行したそうです。◆食道がんの検査

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