Pipette Vol.18 Winter 2018
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2天才棋士と呼ばれ、25歳のときには、将棋界で初めて7冠を同時獲得された羽生さんは、人工知能についても造詣が深く、その発言が注目されています。。ゲスト 羽生 善治(将棋棋士)聞き手 河月 稔(日本臨床衛生検査技師会認定認知症領域検査技師制度委員)(鳥取大学医学部保健学科  生体制御学講座助教)人工知能(AI)の番組出演―『人工知能の核心』という羽生さんの本がベストセラーです。NHKスペシャル「天使か悪魔か―羽生善治 人工知能を探る」という番組取材をもとに執筆された本として非常にわかりやすかったです。テレビの番組だと時間の制限から使われなかったものも多くて、一日取材を受けて放送では1分とかいうことも多々ありますから(笑)、本になって補えたというのはよかったです。あの1時間の番組で準備から入れたら10カ月くらいかかっています。残念ながら私はシンガポール取材は行けなかったのですが。―シンガポールは国父とされた指導者が徹底的に合理的な社会を作り上げました。国によって人工知能の活用姿勢は違うようですが。日本の場合、プライバシーを守るという部分が強いので、技術的にはできても実現していくのは遅くなるという気がしますね。シンガポールは実験国家という側面があって、ご老人の見守りや交通量把握を人工知能で行って、意外と評判がよいようですね。コンピュータにいずれ負ける―羽生さんが7冠を獲得された1996年版の『将棋年鑑』で「コンピュータがプロ棋士を負かす日は?」というアンケートがあり、ほとんどのトップ棋士が否定的な回答の中で、羽生さんだけが「2015年」と回答されたそうですね。その後の現実を予測したかのようでもあります。IBMのコンピュータがチェスの世界チャンピオンだったカスパロフを打ち負かしたのはその翌年で、韓国の囲碁チャンピオンがグーグルの『アルファ碁』に完敗したのは2016年です。将棋でも2010年以降、プロ棋士とコンピュータソフトの対戦が始まり、2016年の第1期電王戦で『ponanza』が山崎叡王(八段)に2連勝しました。当時、なぜそのような回答をされたのでしょうか。棋士の世界というのは、認知科学系の専門家と会う機会が多くて、脳波検査やMRIの検査を受けたり、理化学研究所の研究テーマにお付き合いしたりしていました。専門家とのお話で印象的だったのは、ソフトウェアの開発をしなくてもハードウェアの進歩だけでも、強くなっていくということです。人工知能でいえば、ムーアの法則のように、1年半で倍々に計算処理能力が上がっていくことがあるので、プロ並みに強くなっていくというのは自然な流れだと思っていました。―読みという部分の計算能力が上がるので、ということですか。IBMが作ったディープブルーやワトソンが代表的ですが、巨大なデータベースと大きな計算処理能力をもって、人間の知能に近いものを作っていこうというアプローチです。―当時、他のプロ棋士の方は皆が否定的な回答をされていて、自分が勝てるという自信も①③④②①人工知能Articial Intelligence:AエーIアイ 人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、あるいはそのための一連の基礎技術のこと。②「人工知能の核心」羽生善治・NHKスペシャル取材班(共著)2017年3月発行NHK出版新書

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