Pipette Vol.18 Winter 2018
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●グッジョブ・技師のお仕事ゲスト 羽生善治3あったかもしれませんが、脅威も感じながらの回答だったのではと推測するのですが。将棋だけでなく、囲碁もポーカーもバックギャモンも、いわゆるボードゲームの世界では、人工知能が進歩していて、なぜ全般的に人工知能が強くなってレベルが上がっているかというと、「アイデアを共有できる」ということがあるのです。将棋でいえば、探索プログラムといって、読みの部分はストックフィッシュというチェスのプログラムが使われています。チェスで使っている探索機能を多少チューニングすれば、将棋向けにいいものができるのです。囲碁で強くなっているというのも、ほかの世界の知見を取り入れているからということですね。―ゲームの分野を問わず相乗的に進歩するのですね。将棋のソフトでいえば、化学専門や工学専門という異ジャンルで才能のある方がプログラムを作って成果を出しています。ですから、将棋に関わらず、人工知能についてこれからいえることは、「一つのプラットフォームとしての人工知能にさまざまなジャンルの方が参入してきて発展させていく」という流れがあるということです。人工知能との付き合い方―人工知能や人工知能ロボットという、とても難しい話題を読者にわかりやすく伝えたいと思い、下図のように、人間の知能と人工知能の「限界」と「可能性」の組み合わせというものを考えてみました。望ましいのは人間の知能の限界を人工知能の可能性で補うという「活用」と人工知能の限界を「認識」することだと思います。しかし、今までのお話にもあったように、2つの知能の可能性だけを比較して競争させたりする傾向が実際にはあります。あるシンクタンクの報告では、医師や弁護士といった高度専門職のみならず私たち臨床検査技師も人工知能によって職が奪われる職業の一つにあげられたりしています。人工知能の可能性を「活用」しながら、という関係なら、そうはならないわけですよね。―そうなのです。また、2つの知能の限界どうしの組み合わせも相乗リスクが大きい気もします。例えば、人間が軍事目的で命令に従順な人工知能を活用する場合は恐ろしい。人工知能のリスク面はどうお考えですか。例えば、車の自動運転もそうですが、サイバー空間というかネット上の世界で使われていた人工知能がリアル(現実)の世界に出てきているわけです。その場合、ただ便利だからという理由では駄目で、安全であるとか人間に危害を加えないとか、副作用が出ないとか、これまでにないものに対して法律もルールも秩序もないわけですから、いかにいい枠組みを作るかという点が大事なところで、今、まさにそれが始まっているという段階ということですね。―まだ、どう活用していくかが決まっていないわけですね。誰がどこでどう決めるかさえも決まっていない(笑)。今まで存在しなかったものですから。―問題が起こった都度、決めるということになりますか?自動運転であれば、さまざまな開発フェーズ(段階)のようなものがあって、特にアメリカなどでは主導している大きな企業があるので、そこでさまざまな議論が行われています。ただ、民間企業がやっているので、公的な縛りができるかという問題は多少あるとは思います。④ムーアの法則インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアが、1965年に自らの論文上で唱えた「半導体の集積率は18カ月で2倍になる」という半導体業界の経験則。望ましい関係望ましくない関係人間の知能の限界人工知能の可能性活用人間の知能の可能性人工知能の限界認識人間の知能の可能性人工知能の可能性人間の知能の限界人工知能の限界比較や競争相乗リスク③シンガポールスマート国家を目指している。例:スマートフォン用アプリを使い交通機関の状況、個人の嗜好性、インセンティブ影響度といった大量かつ複雑なデータを人工知能が学習し予測。その結果をもとに、人々が受け入れ可能かつ混雑緩和に結びつく行動を発見し、スマートフォンに表示して、最適な行動を提案する実証実験など。

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