Pipette Vol.18 Winter 2018
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5リアルな世界で人工知能ロボットは難しいジャンルです。将棋のソフトのようなスピードでは進まないのではないかと思います。三次元のリアルな世界では、例えば風が吹くというような偶然性があります。人間であれば当たり前に対応できることも、プログラムに教えるというのは意外と難しい。人工知能ができること―アインシュタインの知能指数(IQ)は180だったとされる一方、人工知能のIQは、このままいけば4000という桁外れなレベルに至る可能性もあるといわれます。人間の場合、「記憶」や「直観」「大局観」、五感を活かした最適判断など、優れた特徴があるわけですね。羽生さんは、将棋で右脳を多く使っているというデータもあるそうです。直感を重視されているということでしょうか。私が右脳を使っているのか左脳を使っているのかは、本人にはまったくわからない話なんです(笑)。「暗黙知」という言葉がありますが、長年やっている職人さんの技術というのは、言語化とか数値化はできないけれども、素晴らしい製品ができ上がる。これを人工知能にさせるのはかなり難しい。そういう直感的なものというか、短い時間の中で人間が何をやっているのかということはわからないわけです。しかし、人工知能と脳研究はきわめて近い世界なので、片方が進めばもう片方も進むという相乗効果は、これから期待できると個人的には思っています。―レンブラントそっくりのオリジナル作品を人工知能が描いたということがありますね。絵画では画像に関する技術が大きく進んでいることが背景にあります。人間が感じるレンブラントらしさというものがある一方で、人工知能が学習して探し出したレンブラントらしさの「特徴量」を、たくさんの計算をして見つけ出すことができるようになったわけです。一方、音楽のほうでは、人間が作ったバッハ風の曲と人工知能が作ったバッハ風の曲をブラインドテスト(作者名を伏せて比較)したら、人間が作ったものが一番評価は低かったようです。―えっ、そうなんですか(笑)。ブラインドテストではどれが人間の作品かはわかりませんからね。そういう特徴量を見つけ出すという点で人工知能はすごいことができるんです。でも、バッハ風の曲を人工知能がたくさん作っていくことには非難ごうごうの反応があって、もちろんバッハ自身が多作だったとはいえ、人工知能が8分に1曲とか作れてしまうとありがたみがなくなる(笑)。ちょっとどうなのかと。―私自身が研究者なので気になるのですが、人工知能自身が研究するということはありますか。現在、人工知能は学習と推論を別々にやっています。人間は学習しながら推論ができるわけです。例えば、ドローンが飛んでいるのを見たら、初めて見た小学生でも何個か見れば、その後どんな種類のドローンが飛んできても認識できるようになりますが、今の人工知能だと、まずドローンの画像をたくさん学習させて概念を作らないといけません。ですから、未知のものの推論はしばらく人間がやらないといけません。さらに、この問題の最適解答を探してくださいということは人工知能ができても、問題そのものを作れるかというとできません。「こういうジャンルを研究したほうがいい」、「これは将来、社会の役に立つ」というような最初の出発点は人工知能にはできないので、人間が必ずやらなくてはいけない部分です。ただし、逆に、目的もなくさまざまなことを人工知能にやらせてみて、その中からこれは役に立つんじゃないかというものをピックアップして、深く研究していくという可能性はあります。研究には山ほどテーマがありますから、どこから取りかかっていけばいいかをまず人工知能にやらせて、その結果を人間が見て、ここは鉱脈がありそうだなと絞り込むツールとして人工知能を活用するわけです。将棋でも、人工知能は脈絡がない作業ができますし、10秒で1局とか大量に対局してくれるので、データは山ほど作ってくれます。そこから何を引っ張ってくるかは人間の作業です。

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