Pipette Vol.18 Winter 2018
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6人間の知能と認知症―人工知能はどんどん発達するわけですが、人間は加齢などの理由で記憶力が徐々に落ちてきます。羽生さんご自身も経験によって直感や大局観を養うとされていますし、勉強法も対局のスタイルも変わってくると。いつからそう変えようと思われたのでしょうか。将棋を読みだけでやるのではなく、感覚も交えるという比重がちょっとずつ変わってきているとは思うんですけれど、経験値を活かすには感覚的なものを使ったほうがいいだろうと。記憶したり読んでいくことは別に経験値とは関係ないですから、年数を経たとらえ方の違いでしょうね。―高齢化社会による先進国共通の課題として認知症があります。これは脳の認知機能が加齢やその他の原因によって障害されて日常生活や社会生活に支障をきたす症状を指しますが、人間の知能が低下または失われていくといってもよいかと思います。世界中の製薬企業が血まなこで認知症治療薬の開発を行っていますが、なかなか成功していません。日本人のノーベル賞受賞者の利根川進、田中耕一、山中伸弥といった先生方もそれぞれのご専門の立場から、アルツハイマー型認知症に関するテーマの研究をされています。羽生さんは認知症についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?認知症といっても全部忘れてしまうわけではないし、部分的にはまったく問題なくできることもあるし、日によっても違うし、そういう意味では人間ならではの状態にあるとは思うのですが、このジャンルも力を入れて研究が進んでいるので、だんだんいい治療法とか改善策が見つかってくるのではと思いますね。―現在、認知症は予防できるという研究もたくさんあり、海外の研究者によれば、チェスのようなボードゲームを習慣的にしていれば認知症になりにくかったというデータもあります。将棋にも図形の認識能力が必要であると羽生さんは本の中で書かれていますが、将棋は認知症予防にもつながるのかなと思ったりします。 人工知能が今後人間の領域を超えるような時代になると、人間が知能を使わなくなり、認知症の患者さんも増えるのではないかという気もします。人工知能の進化ゆえの問題点についてはどうお考えでしょうか?IQ4000といった人工知能が出てきて、そしてそれを常時携帯できるようにでもなれば、人間は考えたり思索することをやめてしまうのではないかという懸念もあります。一方で、認知症の予防でも治療でも小さな子どもの教育でも、人工知能がさまざまなデータに基づいて、こういうやり方をしたら認知症が防げますよとか、人間の能力が上がりますといってくれる可能性もあるのではと思います。このような教育などの部分は、人工知能がまだ進んでいないフロンティアの分野なので、病気の予防や治療を含めてかなり可能性があるのではないかなと。―ペッパーが対話して家族がハッピーになるという放送映像がNHKスペシャルの中でもありました。認知症の方は話しかけてもらって刺激を受けるというケアの部分もありますし、看護師や介護職は忙しいですから、患者さんと少ししか対話できていないしコミュニケーションがとれない。そこをサポートしてくれるような人工知能ロボットも可能ではと期待します。何かしらの刺激のようなものが、脳を活性化させるとか認知症を防ぐ点で大事なことですね。年齢を積み重ねてくると、同じことを繰り返すとか(笑)、新しいことをやらなくなる(笑)という習慣が人間にはどうしてもあるので、どういうテーマがあるとか、違うこともあると促し導くのに、人工知能の存在価値というのは十分にあるのではないかと思います。―病気の分野で人を助けるという点では、人工知能の関わりがまだ少ないようです。治療のサポートもあるでしょうし、心のケアという面でも、人工知能は24時間365日働けますからね(笑)。そこがすごいところなんです。さらに量産もできますし、日本は超高齢社会になっていますから、その方面で開発していくことは大事だと思います。ビッグデータで何かをするというのは、アメリカの企業がすべて抑えていますが、リアルの世界の有用なロボットは、モノ作りの国だから日河月 稔

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