Pipette Vol.20 Summer 2018
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●グッジョブ・技師のお仕事ゲスト 渡辺 徹5ることも大切だと。調子が悪いのを一番わかっているのは自分ですから、そこを指摘されると、大体の場合はムッとなります。でもそれを指摘してくれる人が何人いるかと言えば、やはり配偶者なんです。職場などでは人間関係の維持とかの配慮もありますから、それが言えるのは夫婦です。僕らも結婚30年ですけど、夫婦のあり方という点で、まだまだ不完全だと話し合っています。その意味では発展途上なんですね。不完全が悪いのではなくて、最初から不完全で始まっていると思えば、最初からできるわけないし、わかり合えるようになった部分を発見する、体調が悪いときにはそばにいてほしいんだと気づくといったことがいい夫婦になる要素だと。「夫婦なんだから、それくらい当たり前だ」という考え方はやめたほうがいいです。―すばらしいです。言ってもらえる関係、言われたことを受け入れる関係が、夫婦の階段を上がる秘訣なんですね。「そんなことはわかってる」と言ったことも何度かあります。「勝手にしたら」と見放すことなく、言ってくれた妻は努力したんだなと。それには理由もあるんです。妻はお父さんを若くして心筋梗塞で亡くしていて、僕にその二の舞はさせたくないと。今では戦友みたいな関係です。―高校時代から奥様となる郁恵さんのファンだったとか。あまりTVを見たりするほうじゃなかったんですが、先にデビューした彼女のポスターを部屋に貼ったりしていたのは事実です(笑)。まあ、ご縁なんでしょうね、きっと。人とのコミュニケーション東京芸大で講義をする機会もあるんですが、俳優にしても、芸術家にしても、皆さんのような臨床検査技師にしても、最終的な相手は人ですから、人とのコミュニケーションが問われると思うんです。映画技術が発展しようと、検査機器が発達しようと、見るのも操作するのも人ですから、人間が人間に何を語って、どうぬくもりを感じて、ということがベースであり一番大事だと思います。舞台でも事故は起こりえるので、毎回しっかりと事前確認をします。安全のチェックは、セリフのチェックとともに欠かせません。それで完結だと思いがちですが、大事なことは相手が満足できたかどうかです。これがプロフェッショナルだと思います。検査技術にせよ、われわれの戯曲にせよ、あくまでお客様とつながるための「ツール」でしかないと。―検査機器の毎日の点検は必須とされる作業ですね。僕なんか、心電図検査で体にいろいろ器具を付けられるだけで緊張します。こんな緊張で不整脈が出たらどうしよう(笑)。血圧も上がるし(笑)。芝居も毎日同じことをしているようで、毎回毎回違う出来事がある。昨日うまくいったから同じ感じでやろうと思うと、うまくいかない。2時間前に劇場に入ってストレッチして、セリフのチェックをして、舞台の安全確認を毎回します。何日もやっているし、慣れたからやらなくていいやと思うと、何かが起こってしまう。われわれには毎日のことでも、お客様にとっては初めてだということを肝に銘じておくべきです。

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