Pipette Vol.20 Summer 2018
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9◆てんかんとは「てんかん」は、脳の病気で、年齢、性別、人種に関係なく発病します。一般的に有病率は全人口の0・8~1%で、日本では約100万人のてんかん患者がいるといわれています。発症する年齢は小児期、特に3歳以下が多く、その後は年齢とともに低下しますが、初老期(65歳以上)になると再び増加します。「てんかん発作」は、脳の神経細胞の電気的活動に突然乱れが生じて、激しい異常な興奮が起こることによって引き起こされます。この異常な電気的活動を記録するのが脳波です。「てんかん」は、「てんかん発作」を繰り返し起こす慢性の病気のことです。てんかんの発作症状にはさまざまなものがありますが、一人の患者が起こす症状はほぼ一定で、それぞれの患者が同じような発作症状を繰り返し起こします。また、てんかんであることによる二次的な症状として、患者の心理的な負担あるいは社会生活での問題などに基づく不安、絶望、消極、孤立、逡巡、敏感、防衛、不幸せ感などから、うつ病などの精神的な問題を引き起こす可能性もあります。◆てんかんの原因てんかんはその原因の有無によって「症候性」と「特発性」に分類されます。症候性てんかんとは、脳に何らかの障害や傷があることによって引き起こされるてんかんです。たとえば、生まれつきの脳の形成異常や、生下時の仮死状態や低酸素症、脳炎、髄膜炎、脳出血、脳梗塞、脳外傷、アルツハイマーなどが原因として挙げられます。一方、特発性てんかんは、いろいろな検査を行っても、明らかな原因が見つからないてんかんです。MRIなどでも脳に障害や傷がみつかりません。この特発性てんかんの一部には、「てんかんになりやすい傾向」が遺伝する可能性(遺伝あるいは素因)も指摘されています。◆てんかん発作が起こる仕組みと分類大脳は、中央の溝を境に大きく左右(左半球と右半球)に分かれています。左半球は右半身を、右半球は左半身の神経を調整し、また、脳は各部位ごとにそれぞれの働きを担っています。その働き(活動)を伝達する脳内の神経細胞(ニューロン)には興奮系のものと抑制系のものがあって、普段はお互いにバランスよく活動しています。そのバランスが崩れると、すなわち興奮系の神経が強く働きすぎたり、抑制系の神経が弱まったりすると、電気的な異常(過剰)興奮が起こり、てんかん発作が引き起こされます。てんかん発作は大きく2種類に分類されます。「全般てんかん」は、脳全体から一斉にてんかん発作が起こるものであり、左右差のない強直発作、ミオクロニー発作、強直間代発作などが特徴的な症状として見られます。一方、「部分てんかん」では脳の一部から発作が起こります。発作が生じた部位によって、発作には特有の症状が現れます。発作が脳全体に広がってしまうと、二次性全般化といって全身性の強直間代発作に進展することもあります。◆てんかんの診断と治療心原性や起立性低血圧による失神、心因性発作、過呼吸やパニック障害、脳卒中などはしばしばてんかん(発作)と間違えられることがあります。てんかんの診断においてまず問診が重要です。いつどのような状況で発作が起こったか、最初にどのような症状から始まって次にどうなったか、意識はあったか、発作中に眼を見開いていたか、発作の持続時間はどれくらいであったか、など詳細に聞かなければいけません。発作中には患者本人の意識がないことも多いため、発作を目撃した周囲の人が発作時の状況を医師に伝えることが診断に役立ちます。問診で得られた情報に加えて脳波検査やCT、MRI、SPECT、PETなどの画像検査を行うことで病態がよりはっきりしてきます。てんかんを診断する上で脳波検査は欠かせないものであり、臨床検査技師が担当します。発作を起こしている最中に脳波を測定すると、神経細胞の異常な興奮状態を発作波として検出できます。また、発作を起こしていないときであっても、棘徐波などの異常が捉えられることがあります。ただし、覚醒時には異常波が出にくいこともあり、てんかん診断に際しては、2回以上の複数検査、それも断眠などの処置をして睡眠期を含む脳波を記録することが重要です。てんかんの治療は抗てんかん薬の内服が基本です。薬物治療で約70%の患者においては発作がコントロールできます。しかしながら、残り30%の患者では十分な薬物治療を行っても発作がコントロールできず、外科的治療が行われることもあります。最近の新しい抗てんかん薬や外科的治療の進歩によって、多くの患者さんの生活の質を向上させることが可能となっています。◆てんかんの検査※ゴッホについては母系の遺伝要因や側頭葉てんかんを疑う研究もなされています。●江戸期の浮世絵にゴッホは大きな影響を受けました。 右:渓斎英泉   『雲流打掛の花魁』 中央:パリ・イリュス     トレの表紙 左:ゴッホの習作   『おいらん』●売れない新進画家を応援した画材屋タンギーじいさんへの代金代わりの肖像画の背景にも、ゴッホは数枚の浮世絵を配置しています。

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