Pipette Vol.22 Winter 2019
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●グッジョブ・技師のお仕事ゲスト 五郎丸 歩5を上げる体力づくりを、4年間かけて取り組んだわけです。主体性を引き出す指導―日大のアメフト事件でも明らかになりましたが、どこの組織においても、上の人たち、いわゆる上司との折り合いが悪くて、仕事がうまくいかないというケースはあります。 五郎丸さんは、上の人とどんな折り合いをつけるのでしょうか。自分の考えを主張する、もしくは押し殺すなど、いろいろありますが。これは難しい問題ですね。日本は縦社会ですし、目上への敬意ということもありますが、僕はネガティブにはとらえていません。日本が大事にしてきたものは大事にすべきだし、外してはいけない。ただ、アメフト事件もそうですが、上から与えられたものしかやってこなかったとか、自分でストップをかけるタイミングがあったはずということは言えると思います。主体性をもってやれる環境は、日本のスポーツ界ではまだ少ないなと感じます。そういう環境をつくり出すべきですし、そのために指導者も知識を身に付けるべきでしょうね。―常に「考える」という姿勢がないと、主体性は出てこない。いいヘッドコーチと言われる人で、結果だけでそう言われるケースや、結果は出なかったけれども、人として成長させてくれるヘッドコーチもありえます。私は、いろいろな指導者に出会いました。佐賀工業高校のときは、人としてどうあらねばならないかに、指導がフォーカスされていました。成績はずっと全国ベスト8どまりでしたが、小城博監督がおっしゃったのは、「我々はベスト8でいい」。なぜかといえば、佐賀工業高校の場合、強豪校からラグビー経験者を取ってくるのではなく、相撲をしていた子、バスケットボールの子などを取ってきて、走り方から教える。そして、基本的なことしか教えない。大学や社会人になったときに、この基礎が生きて伸びるから、今はこれでいいんだと。こういう指導の仕方もあるのかと思いました。―愛媛県の高校代表をサポートしていたとき、遠征して佐賀工業とも試合をしましたが、小城さんは本当に基本しかやられませんでしたね。五郎丸さんは大学では清宮克幸監督、日本代表でエディー、ヤマハでは再び清宮監督と。ええ、僕は指導者に恵まれたと感じます。―エディーの場合、小城さんや清宮さんとは少し違うタイプにも見えますが(笑)。彼はオーストラリアで、もともと学校の教師でしたし、人を育てることには情熱的です。ただ、人格者かといえば、ちょっと(笑)。でも学ぼうとする姿勢や知識はすごくて、例えば、バルセロナまで行っていろいろ話を聞いて、自分自身を成長させるとか、僕らにハードなことをさせますが、自分もそれ以上にやっていました。朝5時からの練習にエディーは4時半には来て、僕らを待っていました。夜も試合のビデオを観たりして、ほとんど寝ませんしね。―南アフリカ戦の終盤、エディーは引き分を狙える五郎丸さんによるペナルティキックを指示しました。けれども選手たちはこの指示を無視してスクラムを選択し、逆転トライにつなげました。「勝つことをあきらめたのはヘッドコーチである私であり、選手たちが私を超えて成功をつかんだ」とエディー自らが振り返っています。今年のワールドカップは―今年、日本開催となるワールドカップ2ハードワークエディー・ジョーンズ著(講談社+α文庫)日本人選手の、「自分たちは弱い」という思い込みは、非常に強固でした。(略)日本人は、ものすごい底力を持った民族です。それは短い期間で目覚ましい成長を遂げた日本の選手たちを、間近に見てきた私が、誰よりも実感しています。(略)「自分はどうせダメだ」というマイナス思考が、成功を阻んでいるのです。それを取り除きさえすれば、誰でも成功を手に入れることができます。

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