Pipette Vol.23 Spring 2019
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4ないか、糖尿病治療薬の影響はないかと、糖尿病とボケ症状の関係は主治医もかなり気にされていましたね。―糖尿病の認知症リスクは今日では実証されています。九州大学が久ひさ山やま町の住民健診のデータを長年にわたり観察している有名な「久山町研究」の最近の報告では、60歳以上の住民1000名の15年間の追跡で、糖尿病によるAD(アルツハイマー型認知症)発症リスクは2・1倍、VaD(脳血管性認知症)発症リスクは1・8倍だったそうです。※いずれも正常な耐糖能群との発症率と比較。現状を受け入れるための検査―義母さまの認知症の検査には立ち会われたのですか。最初におかしいと相談したときに、主治医の先生も理解されて、検査の手配をされました。CTのような画像検査も一通りされました。―認知症の検査では、いろいろな原因から認知症の症状を呈することから、複数の検査で可能性のない原因を削除しながら、鑑別していくわけです。認知症状が治る病気もありますから、検査はきわめて重要です。認知症というと一つの病気と誤解されがちですが、あくまで症状名であって、原因となる病名はさまざまなのです。当初、夫は義母の症状は「齢のせいだ」と思っていて、私とは温度差もありました。病名を言われることがいやな夫への気遣いもあり、検査を躊躇した部分は反省しています。20代で若かったこともあり、私に勇気が足りなかったのです。―社会的にもこの病気についての啓発が十分でなく、ご家族が戸惑うことはありますね。どうして本当のことを知ることを、恥のように受け止めるのだろうかと思います。あくまで病気であって、その人となりがすべて消えていくわけではない。早いうちに検査をしてもらい、家族が受け入れるべきですよね。男性で社会的立場があったり、人格者だったりすると、病気であることを知るのは奥様も怖いと言いますが、そうではないですよ、と言いたいです。そこにふたをしてしまうのが、一番悪いことですよって。まず現状を正しく受け入れることができれば、その後のすべてを受け入れることもできますから。―ご講演などでも、その部分が聞く人の心に一番響くのかなと。そうなんです。私の講演を聞いてから怖くなくなったと。一度心の扉を開ければ、何でも相談できるようになるんですね。施設入所の選び方にしても、通いやすい自宅から近いところはご近所の知り合いも多いから、それが嫌なら少し離れた施設のほうが気は楽ですよとアドバイスします。認知症の告知―義母さまの場合、ご本人は病名を知っていましたか。いいえ。本人が「ご飯を食べていない」と言えば、もう一膳作って置いておく。すでに食べていますから食べられないわけですが、食べ物がそこにあると安心するのですね。―がんでは本人に告知するという流れになってきましたが、認知症は本人告知すべきかどうかという論点があります。その人の性格や社会環境もありますよね。若年性認知症になり、仕事も続けられなくなって、奥様が認知症を本人に告知したケースを知っていますが、とても穏やかな性格の方でしたね。義母の場合は激しく症状高村好実

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