Pipette Vol.24 Summer 2019
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2俳句文化の普及のために多面的な活動に取り組み、TV番組『プレバト!!』出演で、第44回放送文化基金賞も受賞された夏井いつきさんに、俳句の奥深い魅力についてわかりやすくご紹介いただきました。ゲスト夏井いつき(俳句集団「いつき組」組長)聞き手宮川朱美(医療法人財団博仁会キナシ大林病院 検査科)俳句の裾野を広げる仕事 ─句会ライブなど夏井さんの参加型の公開イベントでは、和服でないお姿も新鮮で素敵です。和服はTV局が用意するコスチュームのようなもので、私自身は、一枚も和服を持っておりません(笑)。─夏井さんは、俳句の初心者を「チーム裾野」とネーミングされています。私がやっているのは、「俳句の種まき」という仕事です。「裾野」という呼び方をすると、みなさんが「ああ、自分は裾野なんだ」と安心してこちらを振り向いてくれます。私が学校の教員を辞めて俳句の仕事を始めようとしたとき、俳句の世界は高齢化の極みで、20 代、30代でやる人は珍しく、このまま放っておくと、俳句の根っこが細くなり、根腐れして俳句という文芸が根こそぎ倒れてしまうのではないかという危機感がありました。俳句の世界には「主宰」を頂点にした「俳句結社」というピラミッド型の組織がいっぱいあるのですが、俳句を生なり業わいにできる人はほんの一握り。俳句結社も持たず、私がたった一人でやっていくにはどうしたらいいのか。俳句が百年後も高くて美しい山であってほしい。富士山が美しいのは、豊かで広い裾野があるからです。高尚にして崇高な俳句を俳都・松山で私ごときが生業にするなど不届き千せん万ばん、という空気もあったのですが、俳句が百年後も生き残っていくために今、私ができることをやろうと決めました。それが「俳句の種まき」運動です。中学校で国語を教えていた経験も幸いして、子どもたちに種をまくことが重要だと考えるようになりました。─私の住んでいる香川県にも讃岐富士があります。裾野が広いからこそきれいに見えるんですね(感涙)。 このお話だけでウルウルされるって、何ていい人なんだろう(笑)。教員時代の先輩で尊敬していた松田先生から、「教育と文化は百年単位の到達点で考えるべきだ」と教えられ、とても衝撃的でした。日々の目先のことだけで右往左往していたら、自分の方針も、何をやっているのかもわからなくなります。私が百年生きられないとしても、百年後を考えて自分がやれる仕事を選んでいこうと決めました。「私は裾野に種をまきます!」と。俳句を生涯教育としてでも、種まきを始めると、また、いろいろ言う人が出てくる(笑)。裾野が広がれば大衆化して、山が低くなる、というのです。「それって、草野球が広がるとプロ野球の質が低くなると言っているのと一緒ですよ」と闘いました(笑)。─何事も興味を持つ人が増えないと、優れた人材もでてこない。裾野が広がるから「才能あり!」も増えるわけですね。「俳句の種まき」の位置づけは生涯教育です。立ち上げから関わっている俳句甲子園も、俳句と格闘してもらう高校の3年間が、何かの力になってほしいと。若い俳人の養成が目的ではありません。一生学ぶってとても楽しいし、面白いと思ったら、勝手に学び始めます。俳句の季語はすべてのジャンル、すべての生活とリンクします。学校教育でいえば、すべての教讃岐富士

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