Pipette Vol.24 Summer 2019
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4はなく、自分から専門的に調べ始める。柏というのは枯れた状態で葉を残して冬を越す生体反応があるそうで、若葉ができ始めてようやく枯れた葉を落とします。枯れた葉で新芽を鳥や虫から守るという理由のようです。古い歳時記では夏の季語。今どきの歳時記では春の季語。なぜだろうか。どうも昔は若い木だったので、夏まで葉を残したけれど、それが老木になって夏まで待てずに力尽きて落ちてしまったから(笑)。歳時記では編者の実感も反映されるし、時代や社会の変化も反映されます。この季語はいつの時代になくなったのかを調べるのもとても楽しいです。毎回みんなで情報を共有しながら、だんだん雑学博士になっていく(笑)。季語には「人事」の分類もあって、俳句をやり出すと好奇心が全方向に広がって、面白がっているうちに1年が終わってしまうのです。ぜひ歳時記を一冊手に入れてください。チーム裾野へのアドバイス─チーム裾野はどの歳時記を買えばいいかも悩むそうですね。いつも言うことは、お財布とカバンと相談してくださいと。自分のカバンに入るほうがいいですから。3つ目に言うのは、自分の視力と相談してください(笑)。字が小さいと読めないから(笑)。─チーム裾野のメンバーは、どのように俳号を付ければよいのですか。お華やお茶の号のように俳号がありますが、先生から戴くものではないので、勝手に自分で付ければいいのです。俳号は上手になってから付けるものだと、チーム裾野は大きな誤解をします。いつも言うのは、本名で俳句をやるとコケたら痛いよ、よく本名でやる勇気があるねえ(笑)。俳号なら験げんが悪い、とすぐ変えられるよと。─正岡子規も変えていますね。ええ、いっぱい号を持っていて、子規は『桜亭雑誌』という週刊の回覧雑誌をいろいろな名前で手作りして楽しんだりしています。俳号は出世魚のように変えてもいいです。私たちの仲間で競馬好きの学校の先生の俳号はテイエムオペラオー(笑)。句会ではみんなが面倒なので、オペラさんと省略するようになり、一生懸命やるうちに俳句が上手になり、せっかくの格調高い作品を、この俳号が下手なものに見せるようになってしまった。今は桜井教人と変えて俳句と作品のバランスがとれるようになりました。だから、下手なうちはふざけた俳号でもよいし、うまくなればかっこいい俳号に変えればいいし、死ぬ前に本名を名乗れるくらい上手になれたらいいですね、と私は言っています。─夏井さんの俳号の「いつき」は本名の「伊月」からきているのですね。最初は、上手でもないのに伊月だと俳号らしくて照れ臭いし、性別もわかりにくいから、ひらがなにしました。新人賞をもらったりして、俳号を変えにくくなりました。─夏井さんの句集は『伊月集』と漢字です。 私の爺さん(祖父)がつけてくれた名前なので、句集くらいは本名でと。認知症予防にもつながる俳句─脳科学者の茂木健一郎さんとの対談で、俳句は脳トレになり認知症予防にもよいと。ある先生の呼びかけで、俳句と脳の研究会を作りました。そのつながりから、東北大学の川島隆太先生の研究室で実験材料になるため(笑)、仙台まで行ったことがあります。私のように俳句を毎日やっている人間の前頭前野の血流値と、初めて俳句を作った方の前頭前野の血流値は変わらないという結果が出てびっくりしました。川島先生の「脳ドリル」をやると、脳の一部分だけが反応しますが、俳句では前頭前野が反応する。言葉を司る部分以外も反応する理由として、俳句を作るというのは、そのときの体験を再生するのではと推測されました。なるほどそうなのか、と。たとえば「薫くん風ぷう」というのは夏の季語ですが、季語と仲良くなってくると、文字で理解するのではなく、薫風の中に自分が立ったときの体験、皮膚の感覚とか、新緑の色とか、新緑が風に動く音俳号(参考)正岡子規………本名は常規、後に、升のぼるに改名。 子規以外の別号として、獺祭書屋主人、竹乃里人、香雲、地風升、野のぼーる球など。 子規自身の随筆で、54種類の号を用いているとし、その中には漱石まである。さらに多くのペンネームが用いられていたとされる。 子規とはホトトギスの異称で、結核を病み喀血した自分自身を、血を吐くまで鳴くと言われるホトトギスに喩えた。高浜虚子………本名は清松根東洋城……本名は豊次郎河東碧梧桐……本名は秉五郎杉田久女………本名は久

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