Pipette vol.29 2020.10 Autumn
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究です。ですので、ホタルが減っていれば、その原因を取り除き、必要であればホタルを増やして、元の場所に戻すとか、そういった活動もしています。―今回対談のメインテーマでもありますが、生物の多様性と保存について、これからの私たちに課せられた、環境への適応と進化、それを論ずる場合、何をもって進化するか、何をもって環境に適応するか、生物学では何か明確な定義はありますか。 これは難しいですが、一言で言えば、遺伝的多様性を残しておくことです。なぜかというと、どの遺伝子がどのような病原菌に強いか弱いかというのは、まだ分からない状態なのです。ですから、多様性があったほうが、たまたま生き残ったもの、それが環境に適応できた場合、子孫を残していけます。 どの遺伝子が何に強いかが、まだ研究で明らかにされていない分、遺伝子資源として、私たちは残しておかないといけないのです。もしかしたら、それらは、私たちに何か有用な薬になるかもしれませんし、長寿の野望があればそのヒントになるかもしれません。まだ分からないことがたくさんあるので、そういった地球上にある遺伝子資源を残しておこうというのは大事ですね。―臨床検査技師の立場から考えますと、悪性疾患に対して、臨床では抗がん剤で治療することがありますが、病原体微生物でしたら、その薬に感受性のある菌がいなくなります。すると、菌全体のバランスが崩れ、ますので、その土地のものを動かさず、環境を改善し、そこにある遺伝子を守っています。 これは大学や研究機関と地域の方が一緒になってやらなければならない、そんな時代になってきました。ここ30年、世界中で小さな生き物たちも含め、研究は進んでいますが、DNAの配列が読めたとしても、ではそれをどうするか、あとはどう解釈するか、研究者それぞれで考え方が違ったりします。―先生の研究において、本当のテーマを、いつぐらいの時期に思い描いていたのでしょうか。 現在は、子どもの頃に見てきた水辺と、状況が変わっています。大学のときに、世界の中の日本というものを見たときに、日本は保全に関してそんなに進んでいませんでしたし、課題がたくさんありました。私も取り組んで、カメの調査をしましたが、当時静岡県にどれほどの、どのような種類がいるか他の菌が増殖してくることを、菌交代現象といいます。生物学でも、ある種の生物が変わる、ある種では外来種が増えてくることによって、全体の生物体系が乱れるということも、恐ろしいことだと思っています。 共通しますよね。体内のバランス、もちろん腸内細菌のバランスも含めですが、食うか食われるかの関係でバランスが取れているものが1つ欠けると、特定のものが増殖します。バランスを保つ方法というのは、結果として表れますので、私たちはこの先を予想しながら、動く必要があります。その辺りでは、生態系、自然のバランスと、人という単体の中にある細菌のバランスも、共通するものがあるのだと思います。―医療の治療、検査、そして先生の自然保護活動、共通点があって面白いと思いました。ここで、種の保存を考えますと、例えば名古屋にはニホンイシガメが結構いますが、千葉のニホンイシガメが少なくなってきています。しかし名古屋のイシガメをそのまま千葉に持っていっても、生物の種の保全にはならないのでしょうか。 地域ごとに遺伝子が違うので放せません。DNAの型が違います。その土地に合った、たまたま偶然残った型というのがありますので、それを残すというのが、今の保全です。一昔前は、川のメダカが減り、インターネットで買ったものを放流して、数を増やすというような、数の保護をしていました。しかし、今は遺伝子レベルで保護をし3

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