Pipette vol.36 2022.7 Summer
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そこから別の次元の人生が始まるということに気づいた人が乗り越えていくのですよ。僕ががんになって入院していて自分でやって心掛けていたのは、たまたまつけたテレビが面白かった、リハビリの先生と話していたらウケたなど、本当に日常のつまらないこと一つ一つで「今日これが面白かった」「今日これ良かったな」ということを拾っていくのです。最終的なゴールは、寛解することですが、昨日より痛みが少し減っている、今日からお風呂に入れるなど、つまらないことを大きな喜びとして自分の中に取り込んでいくということです。「風呂も入れるかもしれないけど、どうせ次の抗がん剤治療でまた入れなくなる」ではなくて、目先の一つ一つの小さな喜びを拾い集めていくことが大事だと思います。―最後に検査の話をさせていただきます。ご病気になる前もおそらく健康診断などを受けてこられたと思うのですが、健康なそのときに採血などで検査結果が気になるようなことはありましたか。人間ドックなどは、毎年受けていました。それほど気にすることはなかったですが、がんになって血液検査結果をよく見るようになりました。血液の領域は極めて重要なのだなと感じています。自分も遺伝子異常を見つけてもらいまして、遺伝子異常によって脳にも転移しやすいから脳に転移しにくい薬も使いましたし、特別な治療法を行えたのも、血液検査の結果があるからだと思います。血液に対して、検査結果が遺伝子レベルに進むことによって、様々な治療法、個々に対するパーソナルな治療のほうに向かっているというのは我々患者にとっては益々期待したいところです。正直に言って、治してもらったのは主治医の先生ですけれども、その裏に、私が会っていない放射線技師で私のがんの影を見つけてくれた人、そして、私が会っていない私の遺伝子異常を見つけてくれた人、そういった人、私が話したこともない、顔も名前も知らない人たちの働きがあるということがとてつもなく実は重要です。それが私の命を救って私をここに帰してくれているわけですから。皆さんのおかげで私は命を戻してもらったなと思っています。血液検査の細かな検査結果によって多くの人が救われているのは事実ですから、そこは、私は血液がんの人間として強く認識しています。―この『P診療所に置いてあり、患者さんや患者さんの家族の方にご覧になっていただきまして、「勇気を頂いた」などいろいろな反響があります。今回も笠井さんのお話は非常に勇気を与えていただいたのではないかなと思っています。今後、益々のご活躍を祈念いたします。病気になったからこそ知り合えた足し算の縁を大切に、逆に生きる力に変えていく笠井さん。ある意味、病気をポジティブにとらえるその姿に、こちらも元気をもらえる対談でした。次回は、病理診断を専門とする医者を主人公にした漫画『フラジャイル病理医岸京一郎の所見』(講談社/アフタヌーンKC刊)の原作者・草水敏さんにお聞きします。ipette』(本誌)ですが、病院やインタビューを終えて検査結果と血液データの重要性6|Pipetteフリーアナウンサー笠井 信輔Kasai Shinsuke     *Guest:笠井 信輔プロフィール : 東京都世田谷区生まれ。1987年早稲田大学を卒業後、フジテレビのアナウンサーに。朝の情報番組『とくダネ!』を20年間担当後、2019年9月に33年間勤めたフジテレビを退社し、フリーアナウンサーとなる。しかし、2カ月後に血液のがんである悪性リンパ腫と判明。4カ月半の入院、治療の結果「完全寛解」となる。 現在、テレビ、ラジオ、講演だけでなく、がん知識の普及など医療関連にも活動の幅を広げている。The interview

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