Pipette vol.43 2024.4 Spring
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―現役時代の槙原さんは、ケガが多かったと思いますが振り返って如何ですか?大きいケガを2回しました。1回目が股関節の骨折で、プレー中でした。85年の阪神に3連発打たれた年で、後半戦を棒に振りましたけれども、左の股関節は速い球を投げる人にとって一番大事なところなので、今までの投球スタイルは失われたと思いました。結果的にスライダーを覚えて、結構使える球となり、コントロールも良くなっていくという変遷をしていきましたので、ケガの功名でした。「私はこれだ」と自分のスタイルを貫き通していたら、意外に短い野球人生だったかもしれません。ケガをして2年目ぐらいから、調子が良くなりました。争う人もいるので先発もしたいし、何とかごまかしながらやっているうちにそれなりに確立できて、一番理想に近い安定感怪我の功名で得た新たなスタイルで、あと狙うのは完全試合でしたが、フォアボールを出したならノーヒットノーランを狙えばいいし、それが駄目なら完封を狙えばいいと下げていけばいいわけです。これほど千載一遇のチャンスはないと思えたので、5回からは逆に力がみなぎりました。―あの試合では、槙原さんはセットポジションで投げていたと書かれています。それは、ベンチ(ピッチングコーチ)からの指示だったのですか? それとも無意識なのか、あるいは変化球重視と言うことでのことなのでしょうか? ワインドアップやノーワインドアップからの投球の方が、威力ある球が投げれると素人目には思うのですが?今はセットで投げるピッチャーが多いですけれども、全部省いていくと一番の理想がセットです。ランナーがいる時に大半を投げるので、いない時にワインドアップをする必要はないし、1人も出さなければそれでいいのですが、ランナーがいる想定で練習したほうがいいので、大半はセットで投げたほうが絶対にまとまります。ワインドアップはセットと体の使い方が少し違うので、ワインドアップでカーブやスライダー、フォークを投げて、練習を2回しないといけません。セットで投げておけば1回で全部練習になりますし、癖も出にくいです。野球は癖が出ます。大きい動きになれば出るので、小さい動きにすると癖も見破られにくいです。それなら余分なことを省いて。練習も合理的です。最終形として、山本由伸が足も上げなくなったのはそれです。    セットポジションというのは、再現性をすごくつくりやすいです。ワインドアップで同じ動きをすると、大きくなれば大きくなるほど体の状態によって変わってしまうことがありますが、セットであればそれほどぶれません。私はセット(スタイル)をはじめにやったと思いますが… 代が付いてきてくれました。もしかすると、私が少し先を行っていたのかもしれません。(笑)今のピッチャーはセットポジションでしか投げないので、ワインドアップを探すのが大変なぐらいですね。―次に、完全試合と一言で言いますが、槙原さんが完全試合を達成し、28年後の一昨年、佐々木朗希投手が達成しました。今、ピッチャーもかなり分業が進み完投が少なくなっていますが、今後の野球界で完全試合ができるピッチャーは出てくると思いますか?出てこないと駄目だと思うし、出てきてほしいです。球数はランナーやフォアボールを出さないので少ないし、多分100球前後です。私が102、佐々木朗希は107程度と、100少しなので、今のピッチャーは7回、8回と100以上は投げられますし、調子が良ければそのまま投げさせると思うので、可能性は十分あると思います。やっと時4|PipetteThe interviewGuest:槙原 寛己

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