日臨技精度保障(標準化事業)

精度保証施設認証制度指針

2010年9月7日

1.はじめに(目的)

生体内60兆個の細胞一つ一つに必要な栄養素を供給する役割を担う血液の構成成分や、運搬している代謝産物を明らかにし定量化することは、疾患の診断並びに治療効果の判定に欠かせないツールとして100年にわたり世界中で使われ、測定対象項目も多様化し、細分化し進歩してきた。分析方法も用手法から自動分析法へと日毎に迅速化・大量処理化し、各医療メーカーの競合開発の成果で、装置・試薬共に進歩し、現在では「診察前検査」という言葉が日常的に使われるまで浸透している。このように市中の一般病院レベルまで血液検査が実施されるようになると、次第に各施設における検査データに差異が認められることが明らかになってきた。原因の一つは、試薬並びに測定装置を供給している医療メーカーが各々独自に開発を進めたことに由来するが、もう一方はこれらを扱いデータ作成を行う検査者によるところが大きい。トレーサビリティと測定方法の標準化については、IFCCやWHOなどの国際的な活動もあり多くの項目で実現している。しかし装置を整備し、日々刻々と変化する試薬の状態を監視し、適正に校正を行う「精度管理」は測定系統が標準化されていてもこれを評価することは困難である。

検査データの質の向上は、全国規模の外部精度管理調査と1980年後半からは日本臨床化学会を中心に行われた基準的測定法の確立などにより取り組まれてきた。2004(平成16)年、日本臨床検査標準協議会(JCCLS)は「臨床検査標準化基本検討委員会」を立ち上げ、わが国における臨床検査の標準化を体系的に整備する活動を開始した。活動の骨子は、(1)標準物質・標準測定法の整備(柱1)、(2)臨床検査測定値の施設間較差是正(柱2)、(3)臨床検査データベースの整備・確立(柱3)の3本の柱から成る。

この活動の柱2は、JCCLSより(社)日本臨床衛生検査技師会(以下 当会)に引き継がれ、「日本臨床衛生検査技師会臨床検査データ標準化事業」として、2007(平成19)年度から組織的に推進された。2009(平成21)年度には、全国47都道府県に基幹施設(検査室)ネットワークが完成し、年間を通じて30項目以上の臨床検査項目について測定値の標準化を日常的に行うことに成功した。これにより、標準化作業が全国的に浸透し、施設間検査データの互換性は高まってきた。

また、 当会では、1965(昭和45)年より外部精度管理調査を開始し、現在では、参加施設が3,500施設を超え、わが国において最大規模の外部精度管理調査となっている。

本指針では、当会主催の事業に参加し、標準化され、かつ精度が十分保証されていると評価できる施設に対して、精度保証施設として認証する制度を提言する。

2.認証範囲

認証範囲は、当会が主催している臨床検査データ標準化事業で実施している項目(TG, HDL-C, LDL-C, TC, GLU, CRE, UN, UA, AST, ALT, GGT, CK, ALP, LD, AMY, ChE,Na, K, Cl, Ca, ALB, TP, TBIL, IP, Fe, CRP, HbA1cおよび CBC)を対象とする。

なお、参考項目であるDBIL, IgG, IgA, IgMは対象外。

3.認証基準の要求事項

精度保証臨床検査室としての認証基準は、以下に記載する要求事項の1)当会主催の外部精度管理調査成績、2)検査データ標準化の実践、3)人的資源、について、全ての要件を満たすものとする。

1)当会主催の外部精度管理調査

@参加年数
原則として申請時から遡って2年以上連続して参加していること。
A参加項目
臨床検査データ標準化事業で実施している項目に参加していること。
B外部精度管理調査結果の評価
許容正解項目/参加項目の比率が90%以上であること。

2)当会主催の臨床検査データ標準化作業

@都道府県で実施している外部精度管理調査結果の評価
当会主催の臨床検査データ標準化作業の一環事業として、パッチワーク方式で実施している都道府県主催の外部精度管理調査、または、それに準ずる外部精度管理調査に毎年参加し、許容正解項目/参加項目の比率が80%以上であること。
なお、上記調査は、原則、ヒト実試料に近い試料(ボランティアの全血、血清、プール血清など)を少なくとも一つ以上用いていること。
A標準化の実践
臨床検査データ標準化事業で、基準的測定法が確立している検査項目について、原則として施設内で標準化を行い、実践していること。
B内部精度管理記録
臨床検査データ標準化事業で実施している項目については、内部精度管理を行い、その記録があること。また、内部精度管理図(Xbar-R管理図等)が作成され充分に活用されていること。
C精度管理不適合改善記録
外部精度管理調査(当会主催,都道府県主催)において、許容正解を外れた項目については、原因の究明、是正処置、監督者の確認等の対策がなされ、その記録があること。内部精度管理においては、明らかに許容範囲を超えた異常値が出た場合の対応マニュアル(仮称;内部精度管理手順書あるいは内部精度管理不適合デ−タ対応マニュアル等)が作成されていること。

3)人的資源

@臨床検査技師
検体検査室(例:生化学検査室、血液検査室等)に、臨床検査技師が常勤していること。
A継続的な教育
申請者が生涯教育研修制度を履修していること。
継続的に臨床検査の精度管理に関連する研修(研修会、報告会等)に年に1回以上参加していること。

4.認証の手順

認証の手続きを図に示す。

申請する施設は、所属する各都道府県の認証委員会に申請書と申請資料(表参照)を揃えて提出する。 都道府県の認証委員会は、【3.認証基準の要求事項1),2),3)】を審査し、要求事項を満たす施設を当会の認証委員会(精度保障事業部)に申請する。

5.認証委員会

1)当会の認証委員会(精度保障事業部)

  1. @委員は当会の精度保障事業部に所属する理事、検査値標準化部会委員とする。その他、委員長が必要と認めた者を委員とすることができる。
  2. A委員長は委員の互選により決定。
  3. B会議は、申請期限が締め切られた後に開催。
  4. C当会の職能的立場から独立し、公正な運営をするために有識者を置き、必要な時に意見交換を行うことができる。

2)都道府県認証委員会(仮称)

  1. @委員は都道府県標準化委員会委員及び基幹施設の検査値標準化担当者、その他、都道府県理事会で必要と認めた者を委員として構成する。
  2. A委員長は委員の互選により決定。
  3. B会議は、申請期限が締め切られた後に開催。
  4. C年に1回以上、各都道府県において認証に関する報告と当会主催の事業に関する研修を行う。

6.運用(実施)

1)実施時期

施行は2010(平成22)年4月1日から開始する。

2)認証書の発行

認証された施設には、当会より認証書が送付される。

3)有効期間

  1. @認証書の有効期間は2年間とする。
  2. Aただし、有効期間中において、当会主催および都道府県主催の外部精度管理調査に参加しなかった場合は、認証を取り消すこととする。
  3. Bその他、要求事項を満たさない不適合、不備が判明した場合は、認証を取り消すこととする。

4)更新

  1. @更新は原則2年毎とする。
  2. A更新時には、3.の認証基準の要求事項を再評価する。

5)認証申請に伴う諸費用

  1. @認証申請に伴う費用は、50,000円とする。

7.まとめ(今後の活動方針)

血液検査はハード面(分析装置・試薬)の進歩により検出感度が向上し、微量ホルモンまでも測定出来る時代となり、もはや罹患者のためだけではなく、予防医学的観点から「健診」という名目で全国各都道府県において健常者をも対象に実施されている。このような状況下において、ソフト面(検査者の行う精度管理)を整備していくことは国民全体の保健衛生に貢献することであり、本制度の実施により、各検査室における精度保証に対する意識が高まり、検査成績の標準化が進み、品質も向上し、ひいてはわが国の医療の質の向上に繋がる。

一方、標準物質や管理試料は高価なものであり、これらを用いて長期的に高品質な精度を維持することは経済的にも厳しい。今後は当会主催の事業が国家的事業として認められ、精度保証に関する業務が診療報酬にまで反映され、かかる収支が円滑に進められるようにならなければならない。これらの事業が恒常的に続けられることが国家の唯一無比の財産である国民に還元されることになる。